【グリーンサイエンス研究センター】福山大学の特色ある異分野研究交流

2月27日(木)福山大学1号館大講義室にて、令和6年度グリーンサイエンス研究センター成果報告会を開催しました。第一部は瀬戸内海周辺の生物多様性がどのように形成され、そして維持されているのかに関する基礎研究、第二部は瀬戸内海の生物資源を如何に付加価値を付けて利用していくのかに関する応用研究です。生物多様性と生物資源利用はいずれも本学のアクティブな研究を支える両輪です。本報告会は、学会では味わえないような学際感のある研究集会となりました。グリーンサイエンス研究センター長佐藤生物科学科)が報告します。

第一部『瀬戸内海島嶼における生物多様性形成史の解明』

第一部は海洋生物科学科の阪本憲司教授が率いる研究プロジェクトです。最初に阪本教授から里山や里海の生物多様性のしくみを明らかにすることの意義について紹介があった後、私(佐藤、生物科学科)の方から、アカネズミのゲノムを調べることで、氷河期に存在した古代河川や現在の市街地による生息地の分断がアカネズミの遺伝的分化に与える影響の話をしました。その後、海洋生物科学科の山岸幸正教授から、島嶼沿岸域に分布するアカモク(藻場を形成する藻類)の集団間には遺伝的な構造があることが紹介されました。続いて、海洋生物科学科の金子健司教授と阪本憲司教授から、それぞれ流れ藻に乗って移動するワレカラとアミメハギの瀬戸内海広域における種分布や遺伝的構造についての紹介があり、最後に、海洋生物科学科の真田誠至准教授から科学コミュニケーションで、里山・里海学の情報発信・科学コミュニケーションをどのように展開すべきかについての手法の紹介がありました。森と藻場はいずれも二酸化炭素の吸収源で多様な生物の棲み処である点が共通する点です。森林国家であり、かつ海洋国家である日本を代表する生態系で、その仕組みの解明によりカーボンニュートラルや生物多様性保全に貢献することができます。これらの生態系のしくみを明らかにするために陸と海の研究者が連携した特色あるプロジェクトとなりました。

第二部『豊饒海「しまなみ」資源SDGs』

第二部は海洋生物科学科の有瀧真人教授が率いる研究プロジェクトです。最初に有瀧教授から里海の資源を利用することの意義について紹介があったあと、薬学部の杉原成美教授が、ノリの材料であるスサビノリにが各種疾患を抑える物質を持っているという興味深い研究成果を紹介しました。その後、有瀧教授からシロギスの養殖プロジェクトについて、着想から開発、そして実際に販売まで至った経緯について、そして多くの学生がこのプロジェクトに関わったことについて紹介がありました。そして、そのシロギスを効率的に養殖するためのAIを使った自動給餌システムの開発について、情報工学科の池岡宏教授から紹介があり、また、省エネルギー化を目的としたシロギスの養殖水槽の新規開発について、建築学科の伊澤康一准教授から紹介がありました。里海の資源開発という一つの目標に向かって、生命工学、薬学、工学の3つの視点が有機的に融合し、本学ならではの学際的なプロジェクトとなりました。

最後に生物科学科の岩本博行教授(前 グリーンサイエンス研究センター長)より、グリーンサイエンス研究センターの歩んできた背景から、現状、そして、未来に向けてわたしたちがすべきことについて語っていただきました。外から見ても福山大学と言えば里山と里海の研究と言われるくらいに特色を出していくことが重要であるという大切な指摘がありました。

成果報告会には本学教員、学生(本学および他大学)、市役所、企業から50名程度が参加し、地域の特色と地域に眠る資源に関する研究を共有することができ、大変良い機会となりました。わたし自身も大変楽しむことができました。実は、海洋生物科学科の有瀧真人教授は本年度を以て定年退職になります。最終講義をしないということですので、今回の成果報告会が有瀧教授の最終講義となりました。個人的にも大変お世話になり、ブランド研究についてもたくさんのことを議論し、たくさんのことを学びました。今回も発表方法から見せ方、そして学生を巻き込んで最初(研究の着想)から最後(シロギスの開発)までやり切ったその教育力と研究力を最後まで学ばせていただきました。感謝に堪えません。

 

学長から一言:佐藤淳センター長の下で、このところグリーンサイエンス研究センターによる研究成果の活発な報告や広報活動の展開が見られます。今回の催しは、福大ブランドの研究「瀬戸内の里山・里海学」を構成する諸研究の成果を余すところなく知ることができる良い機会となりました。他用務との関係でごく一部した視聴できませんでしたが、いずれも力のこもった成果報告。これからも引き続き目覚ましい成果が上がることが期待できそうです。