【図書館】古典籍セミナー 文字と印刷物の歴史について

6月28日(金)、附属図書館にて、国立研究機関である国文学研究資料館副館長、入口先生による古典籍セミナー「かたちで読む国文学」が開催されました。今回は、セミナーの様子を図書館の喜多村がお伝えします(投稿はブログメンバーの大谷)。

 


国文学研究資料館とは
 国文学研究資料館(以下、国文研)とは、1972年に創立された、日本の古典籍・近代文献に関する資料と研究の蓄積を行う国立の研究機関であり、共同研究の拠点として、閲覧業務、各種データベースの提供などのサービスを行っています。
 今般、国文研の副館長である入口敦志先生によって、本学の貴重書の研究が行われることになり、その関連事業として当館で古典籍に関するセミナーを開催していただくこととなりました。

古典籍って?
 そもそも古典籍とはどういった資料を指すのか。
「古典籍」と一口に言っても、明確な定義がされているわけではなく、一般に「内容・形態が優れ価値が高いとされる古い書物」がそうとされているようです。
 では、今回のセミナーでは「古典籍」の何について講義されたのか、その内容を少しご紹介します。

題目にもある「かたち」こそが、古典籍の判別に重要だということ
 セミナーは、第一部の講義「かたちで読む国文学」と、第二部のワークショップの二部構成で行われました。
 第一部の講義では、文字のはじまりから書籍のはじまり、その歴史を追っていくというものでした。

さまざまな“書籍”のレプリカ(入口先生私物)

 人間の情報伝達ツールとしてまず言葉があり、「言葉は記憶に残るが記録に残せない→記録に残すための文字が誕生した」というお話から講義がスタートしました。文字が始まると、識字による階層の分断(知識層と非知識層)がはじまり、そこから媒体(メディア)の使い分けが派生し、古代中国における媒体の使い分けとして思想や歴史などの著作を記した「竹簡」と、行政文書を記した「木簡」などを例に様々な文字・情報・媒体の使い分けと、そこから更に情報・媒体ごとのまとめの派生として本(書物・書籍・典籍)がはじまり、更に紙の登場と発展により、媒体により使い分けられていた情報が、装訂により分けられるようになったとされ、東アジアでは装訂の出現準がそのまま本の格式の序列となっていると説明がなされました。日本では、これと併せて文字種の出現順がそのまま本の格式の序列となっているそうです。
 このほか、『土佐日記』の奥書を例とした書誌情報の記述、『方丈記』の二種の古写本の比較、仮名文学作品の表現の特徴などご説明いただき、まだまだ聴講者の興味は尽きないところではあったのですが、残念ながら時間の都合により第一部は終了となりました。
 講義の中で入口先生が「古典籍の中身はわからなくても、文字と形式(まさしく“かたち”)で、格式は判断することができる」と述べていらっしゃいました。中身(内容)を読解する知識がなくとも、かたちへの知識を持つだけで、古典籍というものが少しだけ身近に感じることができる。そういった「わかる」が増えることから、学問への楽しさを感じることができるのでは、そう思えるような講義でした。

講義の様子

ワークショップ 列帖装の本をつくる
 第二部のワークショップでは、「光悦謡本」のレプリカのコピーを用いて「列帖装(れつじょうそう)」の本を作りました。「列帖装」とは、紙を複数枚重ねて二つ折りにしたものを二つ以上並べ、糸で綴じたものをいいます。
 最初に教材である「光悦謡本」について簡単な解説がなされ、実際にどのような形で綴じてあるのか解体したもので説明され、入口先生による綴じ方の実演ののちに、受講者が各自で取り組む、というものでした。

教材(両面コピーそのままの状態)

上の一括目と下の二括目で、2つの束に分けます。

山折りにした紙の束を背で合わせて、糸を通す穴をあけます。
白い点の部分が、もともと穴が開いていた箇所なので、それをガイドにします。

使用する道具類

一括目と二括目の背を合わせて固定したものと、針(2本)とカッターナイフなど。

クリップで固定し、カッターナイフで小さな切れ込みを入れました。

 ここで大きすぎる穴をあけてしまうと、糸がだれて綴じが緩くなってしまうとのことで、受講者は皆慎重に作業していました。
 背に穴をあけたら、糸を通した針で綴じていく作業に移ります。1本の糸を二本の針に通し、糸の両端を針で刺せるようにします。
 まずは、一括(くくり)目の内側(紙の谷折り部分)の一か所目の穴から針を通し、二括目の背の同じ位置の穴へ針を通し、糸を引き出します。一括目の、最初に糸を通した隣の穴からもう片方の針を通し、同じく二括目の背の同じ位置の穴から針を通し、二括目の内側の谷折りの部分に糸の両端を出します。

入口先生による実演の様子

皆お手本を真剣に見ています。

いざ実践。

先に穴をあけているのに、中々難しいです。

 二括目の内側へ出した糸を、同じ長さになるように調整し、真ん中で 固結びにします。この作業を両サイドで行い、二括目に固結びを二つ作ります。

実演の様子。固結び一つ目。

 入口先生曰く、ピッタリと結び目をきつく結わうのがとても難しいとのこと。確かに難しかったです。

固結びが二つできました。これで一括目と二括目が綴じられた状態です。

 最後に、仕上げとして二つの結びの残り糸を、括の真ん中で結びます。本によって様々な結び方があるそうですが、今回は蝶々結びで実践しました。

お手本はとてもきれいです。

喜多村実践分。

蝶々結びにはできましたが、なんだか糸がふにゃふにゃしています。

列帖装は綴じた糸が外側から見えにくい、とのこと。
確かに見えにくく、外装だけだと綴じの方法がわかりにくくなっています。

 今回教材として紹介いただいた「光悦謡本」は、江戸時代ごろの“活字印刷”による列帖装の本とのこと。ということは、紙の左右・表裏で内容が連続しないものを、続け字の活字組版(左右反対に浮き彫りにした刷り用の文字判)を作成・組み合わせし、内容を確認しつつ両面に印刷、かつ鉤点(コウテン)のみを手書きで付記してから製本したもの、そしてそういった技術が、江戸時代には存在していたということになります。
 歴史的に価値があるとされる文学作品の、写本を所持していることがステータスであるが、写本ほどのコストをかけずに、同等のものを手に入れたい、そう言ったニーズから印刷技術が発展していったそうです。
 最近は電子書籍が出版形態の主流となりつつありますが、電子書籍でもページを送る際に、「ページをめくる」という視覚的・聴覚的エフェクトが付いているものが多く存在します。それは、印刷技術の発展と同じく、「古いメディアでできていたことは、新しいメディアでもできる」という証明のためなのだろうと述べられていました。

 セミナーが終わって、参加された学生や教員の皆さんは「楽しかった」「貴重な体験ができた」とホクホク顔で帰られました。
 私自身、本について、身近にあるからこそ、その成立や発展について疑問に思うことが今まであまりなかったのですが、改めて本について学び、学生時代に司書課程の授業を受けていた時のような、新鮮な気持ちになることができました。

 今回セミナーでお話いただいた内容について、国文学研究資料館が編集・発行されている「本 かたちと文化 : 古典籍・近代文献の見方・楽しみ方」という本(当館所蔵あり)や、「和書のさまざま:国文学研究資料館通常展示図録(2018年版)」という資料で一部読み知ることができます。形態が異なれど、本とは知恵の集積物です。皆さんも後世への知恵を残すため、まずは先人の知恵に触れるため、図書館を利用してみてください。

 

学長から一言:国文学研究資料館副館長の入口敦志先生を講師にお迎えして本学附属図書館で実施された古典籍セミナーは大盛況だったようです。指導を受けながら古典籍の装幀を参加者が実際に自ら行って見る作業も盛り込まれ、充実ぶりを容易に想像できます。参加者の皆さんは興味津々だったことでしょう。ご指導いただいた入口先生に私からも御礼を申し上げたいと思います。