【生物工学科】女子中学生の「科学者の芽吹き」を応援!

生物工学科豊村晃丞助手から、将来が嘱望される女子中学生と微笑ましいやり取りがあったとのことで、この度その一部始終をブログ記事にまとめて貰いました。学長室ブログメンバーの吉崎が投稿いたします。

 


話は昨年10月の三蔵祭(福山大学大学祭)にさかのぼります。三蔵祭は新型コロナ感染拡大のため2020年、2021年とオンライン開催となり、対面で実施するのは3年ぶりでした。生物工学科では、微生物を観察する実験、動物の骨格を観察する実験、ワイン作りに使用する機器の展示など様々な展示を行い、どれも盛況でした。

その際に、動物の骨格標本を食い入るように見つめている中学生の女子生徒さんとお母様を見かけました。その女子生徒さんが「自分でも骨格標本づくりに挑戦してみたい!」とのことでしたので、「魚の頭の骨なら、お店で買った魚から簡単にできますよ。」とお伝えしたところ、その日のうちに魚を買って骨格標本作りに挑戦されたとのことです。そのチャレンジ精神とスピード感に感心しました。

それから約半年が過ぎ日差しも暖かくなった頃、お母様から「ぷよぷよボールを使った実験をしているんですが…」という連絡が入りました。「ぷよぷよボール」とは、水を吸って10倍ほどの体積に膨らむカラフルなおもちゃのボールで、ポリアクリル酸ナトリウムというゼリーのような高吸水性樹脂(高分子ゲル)からできています。

「ぷよぷよボール」を使って取り組んでいる実験とは「ボールを水以外の液体に浸すと、液体の種類によって膨らみ方が全然違う結果となり、なぜこのような違いがでるのか詳細に知りたいので、文献などを教えてほしいとの連絡でした。」うーん、チャレンジ精神とスピード感に加え、探求心も持ち合わせておられるようですね。こういった小さな研究者の芽を摘まないよう、学科の威信をかけて回答しようと思いましたが、残念ながら私は高分子のことはわかりません。そこで、生物工学科の岩本教授と高分子化学が専門のグリーンサイエンス研究センターの新田祥子研究員にお聞きすることにしました。

まず新田研究員からは、「今回の実験では、どのようなゲルを用いているかによって溶媒中での膨潤性(膨らみ方)は変わってきますが、親水性の高分子ゲルであれば水中でよく膨潤します。例えば水のりの成分には多くの水酸基があるため、水と似たような働きをします。アルコールは水と油の中間のような働きをするため、膨らみ方も両者の中間になります。一方、親水性の高分子ゲルを油の中に入れると、水と油は仲が悪いのでなるべく両者が接しないようにゲルは収縮しようとします。洗剤には様々な成分が含まれていますが、界面活性剤(石鹸の成分)が大きく影響してこの結果になったのではないかと思われます。」とのことでした。

また岩本教授からは「ぷよぷよボールにはカルボキシ基という水によくなじむ成分がたくさん含まれており、スポンジのような網目構造を作ってその中に多数の水分子を取り込んで膨れます。カルボキシ基はマイナスの電気を持っていてマイナス同士が反発して膨らむのですが、しょうゆの中にはナトリウムイオンやカリウムイオンといったプラスの電気を持つ物質が多く含まれており、電気が中和されて膨らまなくなったのではないでしょうか?」とのことでした。

その後、お母様から以下のようなメールをいただきましたのでご紹介します。

「先生方、この度は本当にありがとうございました。娘に分かりやすく教えて頂いたおかげで、疑問が解決され納得したようです。ぷよぷよボールの実験が無事、終了しました。娘はより理科が好きになったと思います。本当にありがとうございました。」

私たちも自由実験の手助けができたことを幸いに思うとともに、全国的に理系の学生が減っている昨今において、自ら進んで知を探究し実験をする姿勢に「科学者の芽吹き」を感じることができ大変嬉しく思いました。まだ中学生ということなので、これからに期待するとともに更なる発展を願っております。また、簡単な内容でもあらゆる方が気軽に質問していただけるような学科作りに努めていきたいと思います。

【後日談】 お母様に「ぷよぷよボールのことを学長室ブログに書いてもいいですか?」とお伺いしたところ、以下のような返事が返ってきました。ちょっと面映ゆいのですがあわせてご紹介します。

「ブログの件、喜んでお受けします。娘のことと言うより、こんなに素晴らしい先生方がいらっしゃるということをたくさんの方に知って頂きたいです。私自身「息子の通う大学には、素晴らしい先生方がいらっしゃる!」と友人、知人に自慢していたところです。実は私は、後援会のお手伝いもさせて頂いております。先生方にご恩返しできるよう頑張ります。と言ってはなんですが笑 娘のことも引き続きよろしくお願いします。」

本学学生さんの保証人様(かつ後援会の方)だったんですね。そうとはつゆ知らず、失礼しました。

 

学長から一言:昨年の大学祭で生物工学科が行った実験が縁で、女子中学生のお嬢さんと、すでに本学在学中のお兄ちゃんの保証人でもいらっしゃる親御さんと本学教員との交流が深まった嬉しい話。興味を持ったら自ら進んで実験し、さらに不明な点に関する質問を大学に寄せて下さった貴女は、将来の立派な「リケジョ」の資格十分。また、疑問をしっかり受け止め対応した教員の皆さんも見上げたものです。