【人間文化学科】備後圏域経済・文化研究センター文化部門主催「地域資料活用研修」のお知らせ 江戸後期・福山 大庄屋の知恵に学ぶ地域運営―信岡家の古文書から見えること―

9月21日(土)から11月16日(土)の4回にわたり、学校法人福山大学社会連携推進センターにおいて 文化フォーラム2024「「福山義倉」とその成立背景」が開催されます。今回は、文化フォーラム第1回(9月21日)の様子と関連行事について青木がお伝えします(投稿はFUKUDAI Magメンバーの古内)。

 


備後圏域経済・文化研究センター文化部門の今年度のテーマが、地域の互助システム「福山義倉」成立の文化的ネットワークを菅茶山・井伏鱒二を軸に追及することであることはすでにお知らせしました。10月は、その3回の関連行事―文化フォーラム(10月12日・19日)、地域資料活用研修(10月26日)があります。

▼文化フォーラム第1回(9月21日)は盛況の内に終了しました。

 

文化フォーラム第1回は、清水光明先生(東京大学グローバル地域研究機構、特任研究員)をお招きし、「中井竹山と『社倉私議』」と題して、ご講演いただきました。

当日は、福山義倉の理事長・藤原平氏、神谷和孝理事をはじめ、備陽史探訪の会会員の皆様、地域の歴史愛好家など40名弱の来場者があり、盛況でした。

「社倉私議」は、福山義倉の元になったとされている米の備蓄とそれにまつわる資金運用のシステムです。それを考案したのは、大坂懐徳堂の朱子学者・中井竹山です。

いずれも、門外漢にはなじみの薄い主題でしたが、先生による「社倉私議」本文の丁寧な解説によって、このシステムの内容と意味が明確になりました。中井竹山がこれを考案したのは、貨幣経済が進展した田沼時代(明和4・1767年~天明6・1786年)であり、そこでは米を生産する農民と年貢米を生活の糧とする武士とがいずれも貨幣を持たないため困窮することになるという幕藩体制の根本的な問題がありました。これは、特に気候不順による不作の際に大きな問題となります。天明の飢饉(天明2・1782年~天明8・1788年)の際は全国で百姓一揆が頻発し、福山藩内でも大規模な一揆が起ったことは周知のことです。「社倉私議」は、それを解決するために米を備蓄し、またその一部は換金して運用しながら元手を増やしていく仕組みでした。この仕組みは、藩の借金返済にも力を発揮する多面的な効果がありました。

中井竹山は、これを仕えている龍野藩に献策しましたが、藩は実施しませんでした。ただ、田沼時代の後を引き継いで寛政の改革(天明7・1787年~寛政5・1793年)を実施した松平定信に求められて献策したことで知られています。清水先生は、定信が「社倉」を実施した可能性を指摘されました。

わが福山藩では、武士ではなく、豪農商層が発起人となって、この社倉に似た「義倉」を実施したことは興味深いところです。藩主が幕閣となって領地を留守にしている状況の中で、年貢米を収める責任者である庄屋が最も問題を実質的に体験していたということでしょうか。また、貨幣の扱いに慣れていた豪商たちがこのシステムを理解し、実施することが可能だったということでしょうか。

第2回(10月12日)は、平下義記先生(広島経済大学准教授)をお招きし、「「諸国無類」の義倉運営―「福府義倉」の運営の独自性について―」と題して、いよいよ「福府義倉」そのもののあり方についてお話を聞きます。

第3回(10月19日)は、本学清水洋子准教授による「菅茶山の福祉思想」と題して、茶山の社会意識についてのお話を聞きます。地域の豪農商層にも影響のあった茶山の社会的姿勢を見たいと思います。

 

▼古文書から読み解く・江戸後期の大庄屋・信岡家の地域運営

「地域資料活用研修」は、地域に埋もれた古文書を取り上げて、備後の過去の生活ぶりを実際的に見ていくことを目的としています。

今回は、信岡家文書を取り上げて、江戸後期の大庄屋・信岡家の地域貢献について、学びます。講師は、ひろしま文化功労者であり、元新市歴史博物館館長の山名洋通先生です。

先生は、長年にわたって信岡家文書を詳細に読み解き、その内容を熟知しておられます。この機会に、古文書の読解を通して、大庄屋の具体的な生活ぶりを窺うことができればと思います。

信岡家は、石井武衛門から遺贈を受けた河相周兵衛に、義倉の創設について相談されて最初に賛意を示したことで知られています。「福府義倉」に関与した庄屋の一人として、今回のセンターの主題追及の上で重要な位置にあります。

文化フォーラムに加えて、「地域資料活用研修」へもぜひおいでください。

 

学長から一言:本学の備後圏域経済・文化研究センターの文化部門による研究活動、そしてその成果の地域への還元は精力的に進んでいるようです。センター内外の専門家を講師とする文化フォーラムに加えて、地域資料活用研修も着実な歩みを続けています。この地域の歴史と文化の掘り起こしが更にいっそう発展することを期待しています。