【大学教育センター】一般教養教育科目 実践地域防災学:地元に住む人のマイタイムラインと地域の防災力向上を提案!
本学は、地域の防災力の向上のため、防災士養成研修実施法人として認証を受け、防災士を育成しています。防災に関する授業は3つあり、その1つ「実践地域防災学」では、地域の方にご協力をいただいて現地踏査を行い、地元にお住まいの方を想定したマイタイムラインの提案を行うという、実践的な授業を展開しています。その報告が津田将行准教授(大学教育センター所属、安全安心防災教育研究センター河川臨海域環境保全・防減災教育研究部門 兼務)から届きましたので投稿します。(T)
防災に関する正しい知識と技能を有し、災害時には自助、共助の中心として活躍できる「地域防災リーダー」を育成するために、本学では福山大学安全安心防災教育研究センターが中心となって、「地域防災リーダー養成講座」として、一般教養教育科目に「地域防災基礎」、「地域防災応用」、および「実践地域防災学」を開講しています。
本学は、特定非営利活動法人日本防災士機構から防災士養成研修実施法人として認定を受けており、「地域防災基礎」、「地域防災応用」の両科目を修了した学生は、日本防災士機構が実施する「防災士資格取得試験」の受験資格を得ることができ、毎年多くの学生が防災士の資格を取得しています。
「実践地域防災学」では、「地域防災基礎」、「地域防災応用」で培った防災・減災に関する基本的な事項をもとに、地元の本郷学区の自主防災組織と協働して、実際に生活する方を対象としたマイタイムラインを作成しています。マイタイムラインとは、住民一人ひとりが、台風の接近する場合、大雨が長引く場合、および短時間の急な豪雨が発生した場合に、時間の推移の中で、個々がとる標準的な防災行動を整理したものです。
2020年度の実施状況
2021年度の実施状況
2022年度の実施状況
今年度の「実践地域防災学」は、9月11日(月)から9月15日(金)に集中講義として現地踏査を実施しました。今回の調査対象域は、下の写真の赤い丸の地域です。
現地踏査の事前準備として、災害図上訓練DIGにより本郷学区を流れる川やため池等の自然条件、自治会境界、消防、警察、病院、及び小学校などの防災資源、及び土砂災害警戒区域、及び浸水想定区域を地図上にマークしました。次に避難対象者について、その方の家から避難場所までの避難経路を複数案、考えました。
また、避難後の状況について考えるために、避難所の運営者の立場から避難所に次々にやってくるいろいろな人々や出来事にどう対応すれば良いかを、ゲーム感覚で模擬体験できる避難所運営ゲームHUGを実施しました。
現地踏査では、前年度に引き続き、本郷学区自治会連合会顧問(防災士)の横山様、自主防災会の大村様、鴫田様、曽根高様、石井様、村上様のご協力のもと、災害図上訓練DIGで考えた避難対象者の避難経路を確かめながら実際に現地を歩き、地区の防災上の特徴や危険箇所等を確認するとともに、案内していただいた方、避難対象者とした方々に直接お話を伺って、最適な避難経路を選定しました。
発表会では、災害図上訓練DIG、避難所運営ゲームHUG、および現地踏査結果をもとに、対象地区の防災上の特性、避難対象者の特徴、対象者が自宅から避難場所まで安全にそして短時間で避難できる避難経路と避難経路上の危険箇所を抽出し、避難時の持参物を考慮しながら、タイムライン等を提案することができました。
この発表会には、現地を案内し防災上の問題等についてご教授いただきました連合会の横山様、自主防災会の大村様、鴫田様、そして福山市より危機管理防災課の江原誠一様、松永地域振興課の船岡孝志様、さらには宮内克之福山大学名誉教授にご参加いただき、避難想定と地域の防災力向上について、活発な質問や意見交換が行われ、充実した時間となりました。授業の最後には、以下のようなご感想をいただきました。
- 福山市本郷学区自治会連合会顧問 横山典好様
今回が5回目となります。まず受講生が女子学生ばかりなのに驚きましたが、始めてみるとみんなで協力して事前学習とまとめをしていたのに感心しました。
最初の授業では、「本郷学区の自主防災会」について説明をしました。現地踏査では、先生、学生と自治会連合会役員6名が車と徒歩の両方で「土砂災害の跡地と見学」、「尾越、立神地区の危険個所の現地学習」をしました。発表会では、市役所からも2名の参加があり、各班の説明を聞きました。まとめの時間が少なかったにも関わらず、タイムラインの作成や防災に関わる気づきなどよくまとめてありました。これからの地域防災に役立てたいと思います。 - 福山市 危機管理防災課 江原誠一様
どの発表も、住民の方の声をしっかり聞いて、詳しい現地調査で災害リスクを把握されており、とても実践的なタイムラインだと感じました。防災上の地域課題もご提案いただき、参考になりました。大学生の皆様が引き続き防災を学んでいただき、共助のリーダーになっていただくよう、活躍を期待しています。
受講学生の声
人間文化学部 阿部百花さん
私はこの授業で、住んでいる地域の方々と積極的に関わることの必要性を学びました。この理由は、自分の防災意識は、本郷地区の方々よりも低いと感じました。そこで今後は自身の防災意識を高めるために次の3つのことを実行しようと考えています。1つ目は自分が住んでいる地域を知ること。2つ目は地域の行事やボランティアに参加して地域の方々と交流を深める。最後、3つ目は、今一度、家族と避難計画について話し合い、防災意識を高めていきたいです。
人間文化学部 鈴木美咲さん
授業では、災害図上訓練DIGを行い、白地図上に、起こりうる災害やその被害想定範囲等を書き込み、非難想定者が避難場所まで行くルートを複数考えました。これをもとにフィールドワークでは、地域の方との対話を参考に、考えた避難ルートについて、もしもの時に通行できるか、ガードレールや街灯の有無等の細かな情報の確認をし、安全な避難ルートを提案することができました。災害時には、1つの選択肢だけでなく、複数の選択肢を考え、より安全に行動することの大切さを感じました。
人間文化学部 藤原千鶴さん
私は授業を通して、行政の防災への取り組みだけでなく、本郷学区の方とお会いし、実際に実施されている取り組みや、学区内の防災の拠点に災害時への備えとして備蓄品等が準備されていることを知りました。今後は、私の住んでいる地域の防災活動に参加したり、また災害時にきちんと役割を全うできる防災士を目指そうと考えました。
人間文化学部 中島愛菜さん
今回、ハザードマップによって、初めて私の自宅がある場所が土砂災害警戒地域内の危険な箇所であることを知りました。そのため、今まで「警戒レベル4 避難指示」が出ていた時に避難するべきか迷っていましたが、今後は、実際に災害が起きることを想定して、どのような行動をすればいいのか即座に考え、判断し行動することができると思いました。今後は授業で学んだ事をより多くの人に伝え、そして災害が起きる前に家族、親戚、近所の人、そして友達を守れるような行動を取ろうと思います。
人間文化学部 仁田侑花さん
私はこの授業で初めて避難所運営ゲームHUGを経験しました。疑似体験ではあるが、普段、なかなか経験する事のない避難所の運営者となり、避難して来る方達をいかに迅速に、かつ、どこに振り分けるかを考えました。私は避難者情報の読み上げを担当しましたが、避難して来られる方のそれぞれ事情や要望に配慮して、グループ中で解決策をたくさん出し合い、深く考えながら体験することが出来ました。また、この授業では受講生や本郷学区の方へ質問したり、意見を述べたりといった積極的にコミュニケーションを取り行動する事が出来ました。今後も積極的にみんなの意見を聞きつつ、また自らの意見を発信する等、しっかりコミュニケーションを取り、課題解決へと貢献したいと思います。
経済学部 藤田唯さん
この授業を通して、主に分析力が身についたと感じました。その理由は2つあります。1つ目は、避難所運営ゲームHUGでは、ペット連れや身体障害者の方など、個々の状況を考え、避難場所に見立てた平面図に出来る限り適切に配置しました。2つ目は、今回の避難想定者の方の自宅は、土砂災害警戒区域外の緩やかな坂の途中にあります。この場合、避難するよりも自宅の方が安全かもしれません。しかし、数年前に土石流が発生した静岡県熱海市の環境となんとなく類似しているので、避難場所へ避難する方が良いと考えタイムラインを作成しました。両者とも、自分達が判断したことが、避難者にとって最適解であったのかと、とても難しく自問自答しながら行いました。今後は、実際に現地を見て、また直接お話を聞き、自身の考えをしっかりと組み立てることを心掛けて学習を進めていこうと思います。
学長から一言:本学の地域学の授業の中でも独特の意義のある「地域防災」に関わる諸科目、とくにその仕上げともいうべき「実践地域防災学」の授業において、受講生の皆さんは相当に深い学びができたようです。地域の方々のご協力も得て、「もしもの時」に日頃から備えることの重要性を感じたことでしょう。防災士の資格を取得する人が何人生まれるでしょう。大いに楽しみです。ご協力を賜った地域の方々に私からも御礼を申し上げます。