【海洋生物科学科】福山大学生まれの養殖シロギスブランド「びんごの姫」がお披露目されました!!
福山大学では地域の産業振興を目的に、瀬戸内海の里海魚シロギスの養殖技術開発に取り組んできました。基礎研究、技術の検討を経て、地元企業の協力のもと実証化の目処が立ち、この度ブランド名「びんごの姫」として商標登録しました。数年後には10万尾単位での生産・出荷が見込まれます。ここまで至るには担当した学生たちの涙ぐましい努力がありました。その顛末記が海洋生物科学科の有瀧教授から届きましたので、同学科学長室ブログメンバーの阪本が紹介します。
なぜ、シロギス?
シロギス養殖は、ひょんなきっかけでスタートしました。私が福山大学の内海生物資源研究所(因島キャンパス)に赴任した時、魚の赤ちゃんを育てる研究をずっと続けてきた経緯から、学生たちの研究素材として「コンパクトであること」、「手軽に入手できること」、「飼いやすいこと」、「長期間、コンスタントに卵を産んでくれること」を条件に実験のモデル魚を探していました。・・・そんな都合のいい魚、おるかいな・・・と思っていましたが、瀬戸内海をはじめ日本に広く生息するシロギスにふと目が止まりました。大きさはせいぜい30cm、目の前の浜から釣りで確保できる、簡単にオキアミや配合飼料に餌付く、5月から10月まで毎日卵を産んでくれる。「これだ!!」とシロギス確保のため、釣り餌を買いに走ったのが2015年の春でした。早速学生たちが10数尾のシロギスを釣り上げ、さまざまな実験を開始しました。思惑通り5月から毎日、毎日100日以上、1尾のメスが数万粒の卵を律儀に産んでくれます。
学生たちの頑張りと成果
学生が何度失敗しても実験材料は次から、次へと提供してくれました。従って、学生たちはシロギスの基礎データを得るため、産んだ卵の量はもちろん、大きさ、どれだけ受精しているのか、どれくらいの割合で卵から生まれるのか、生まれた赤ちゃんの大きさ・・・などなど、連日測定と観察が続きます。お盆を過ぎる頃には彼らから「もう勘弁」と弱音が漏れましたが、このお陰で安定して良い卵を得るという、飼育の基盤が確立されました。その後、人工的に育てた子供を親にして卵を得て、またその子供を親にして・・・という「完全養殖」にも成功し、現在では7世代目の親が因島キャンパスの水槽で華麗に泳いでいます。
このように学生たちの実験魚として取り上げたシロギスでしたが、因島キャンパスの水槽で育てると、あれよあれよという間に大きくなり、天然魚では3〜4年掛かるといわれる20cmサイズに達するまでの期間が、ほぼ半減の1.5年に短縮できました。
大学と地元企業との連携
高成長は、養殖魚としての効率化や死亡リスクの回避の観点から大きなメリットになります。この辺りから、学生の教材というシロギスの立ち位置が「ひょっとしたら養殖魚として使えるかも」・・・という方向に大きく舵を切っていく転機となりました。同じ頃、地元で回転寿司を展開されておられる㈱アペックスインターナショナルから「地元の魚を中核に、大学と連携して地域振興をやってみたい」という申し出がありました。まだ、養殖技術としては生まれたての赤ん坊でしたが、大学の取り組みが実社会と手を組むことで、試験出荷、商品開発、評価へと数年で大きな成果をあげることになります。もちろん全て順調に進んだわけではなく、その過程では良質な卵の確保や肉食魚のクロマグロ以上に頻発する共食いでの減少、大量飼育による病気の発生や死亡などが生じ、その度に研究室の学生たちはアタフタと現状確認、問題の抽出、対策の検討に翻弄されることとなりました。しかし、一方で養殖シロギスだからできる生きたままの提供、調理する商品への展開や評価、年齢や性別による嗜好性の把握やそれに基づくマーケティングの開発などにつながるデータがどんどん得られていきました。このことについては、過去のブログをご覧ください。
さて、基本的なシロギスの養殖技術や生産した魚の商品としての特性は把握できました。でも、いくら早く成長して美味しいシロギスが養殖でき、魅力的な食材となっても、どこかで実証していただけないとただの独りよがりです。そんなことで悩んでいた2018年、福山を本拠地として水産物の流通を手掛けておられる㈱クラハシから「沖縄で稼働している養殖施設を活用して、シロギス養殖にチャレンジしてみたい」というオファーが飛び込んできました。温暖な沖縄でシロギスを養殖したら、本州よりさらに早く1年程度で出荷が可能です。加えて、予定している施設は50KLという大型水槽を使うため、それまでの試験的な生産ではなく、数万、数十万尾の生産が可能になります。一気に事業化レベルでの取り組みが具体的に立ち上がっていきました。
その一方で、学生たちは養殖したシロギスが市場でどのように使われるのか、またどんなニーズがあるのか、価格はどうなのかなどを調査するとともに、活魚(生きたまま)や鮮魚(〆たもの)での輸送方法について、卒業研究の課題として取り組むことになりました。試験的に出荷した東京や大阪の市場では、品質の高さに加え、天然魚以上の鮮度を保った養殖シロギスは大評判で、驚くほどの単価で取引される結果となりした。
「びんごの姫」の誕生
2022年度、沖縄の養殖施設では試行段階からいよいよ大量、安定出荷を目指した取り組みへとステップアップし、3月末までに養殖用の種苗(子供)を約数万尾を取り上げることができました。今後数年で10万尾単位、将来的には50万尾のシロギスを沖縄から出荷できる見込みです。このように、2015年から2022年までシロギスと同じ世代を重ねた学生たちが汗水流して築き上げてきたシロギスに、この度「びんごの姫」というブランド名を掲げました。
すでに商標として登録を済ませ、2023年の秋に予定される出荷を待つことになりました。因島キャンパスでほころび、満開を迎える桜のように皆さんに喜んでいただけるものと信じております。まずは、ここまでバトンをつなげてきた学生たちに拍手を送りたいと思います。
学長から一言:海洋生物科学科の有瀧教授をはじめとする教員と学生諸君による努力と試行錯誤の積み重ねの末に完成したシロギスの完全養殖技術。通常の倍速成長が可能になり、育った製品は名前も「びんごの姫」と美しい。地元企業とのタイアップにより、水産業は1次産業ながら、食品加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)を包含した1+2+3で6次産業化を実現した仕事は、新年度も大きく飛躍しそうです。