【人間科学研究科】大学院2年生の修士論文公聴会を開催!

実習に研究に、心理学漬けの2年間を過ごした人間科学研究科の2年生。最終試験として、その集大成を発表する修士論文公聴会が開催されました。本日はその様子を、今年度の学年担任兼学長室ブログメンバーの大杉がお伝えします。

 

先月1月20日(金)、5名の大学院2年生が修士論文を提出しました(昨年9月に行われた中間発表会の様子はこちら)。年末年始返上で執筆に取り組んだ学生は、無事提出を迎えてこの笑顔(1名は、時間の都合上写真には写っていません)!

<ひとまず提出できたことを喜ぶ学生たち。一時の解放感を味わいますが・・・>

とはいえ、修士論文の提出はあくまでも第一次関門。提出の喜びもつかの間、すぐに気持ちを切り替えて、それぞれの指導教員とともに来たる公聴会への準備を進めました。

公聴会は、ちょうど3週間後の2月10日(金)に開催されました。同日午前中に、大学院1年生の修士論文中間発表会が開催され(学長室ブログはこちら)、お昼休憩を挟んで同会場での開催です。

福山大学で最も新しく、設備の整った未来創造館での開催は、普段は別の棟で過ごす人間科学研究科の教職員や学生にとって、それだけで少し特別な、気持ちの高まる機会です。2年生5名は、朝からソワソワドキドキしながら、この時を迎えました。

今回の公聴会はハイブリット形式での開催で、大学院生及び教職員は会場で、学部生はZoomで参加する形をとりました。

会場の設営にあたっては、大学における快適なICT環境の整備を一手に司るICTサービスセンターの力を借りるべく、IR室の片桐重和助教にサポートを頼みました。ハイブリット開催用のビデオカメラの設置や、発表者のためのプレゼンタイマーの設置、快適な質疑応答のためのマイクの準備など、かゆいところに手が届くきめ細やかなサポートは、とても心強いものでした。

<快適な公聴会の準備はばっちりです。>

<発表スライドはどの席からもクリアに見えます。>

公聴会の各発表者の持ち時間は25分。卒業研究発表会や修士論文中間発表会よりも大幅に長くなります。はじめは皆緊張でいっぱいでしたが、これまでの集大成をきちんと伝えようと次第に力強い言葉が増えていき、結果的に頼もしい発表をしてくれました。

5名の発表者と、論文のテーマをご紹介します。

  • 有木香那子さん(臨床心理学研究室)「直接対面形式およびビデオ通話を使用したオンライン形式のカウンセリングにおける特徴についての検討――カウンセラーの受容に焦点を当てて――

コロナ禍を経て、日常生活にオンライン授業やオンライン会議が浸透してきましたが、オンラインカウンセリングはどうなのだろうか、という疑問から研究をスタートさせた有木さん。対面形式とオンライン形式のカウンセリングの違いについて、実際にカウンセリングを行う心理職の方々に調査をした結果を報告してくれました。それぞれのメリットやデメリットをまとめながら、未来のカウンセリングについて、考察できたのではないかと思います。

  • 柏原由貴乃さん(障害心理学研究室)「母子相互作用場面における母親の適切な構造化と自発性尊重の検討――幼児期の神経発達障害児と定型発達児の比較――

神経発達障害を抱える子どもを育てる母親に焦点を当てた研究は、実はあまりないそうです。子どもとどうかかわるか、どのような養育行動をするかは、障害を持たない定型発達児の親でさえも大いに悩むものだと思います。子どもが生活習慣の自立に困難を抱える神経発達障害を抱えていた場合、その親がさらに大きな悩みと負担を持ちながら養育行動を行うことは想像に難くありません。実際の親子の関わりを比較観察し、困難を抱える子供や親をどうサポートすべきかを考える研究でした。

  • 白尾綾音さん(犯罪心理学研究室)「事象関連電位による隠匿情報検査へのダークなパーソナリティの影響

ダークなパーソナリティといわれるDark Triad(ダークトライアド)は、近年様々な形で着目されているように思います。「サイコパス」や「自己愛」等の言葉は、誰しも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。このDark Triadが、犯罪捜査で用いられている隠匿情報検査にどのような影響を及ぼすのかについて検討し、脳波の一成分である事象関連電位がどのように変化したかを報告してくれました。実務においても興味深い話題でした。

  • 中村崚さん(健康心理学研究室)「短縮版病理的自己愛目録日本語版 (B–PNI–J) の信頼性・妥当性の検証――抑うつとの関連――

病理的自己愛というのは、病的なほどに自己に対する承認と賞賛を求めてしまう傾向のことを言いますが、それを適切に評価する尺度について改めて検討しようというテーマの研究でした。既存の尺度を今一度検討し直し、抑うつとの関連も視野に入れながら、丁寧に追試したものです。心理的な問題は実に複雑に絡み合うものですが、それらを適切に評価してこそサポートが可能となります。現場にどう還元するかも、様々な考察がなされていました。

  • 藤村天羽さん(捜査心理学研究室)「反応時間を用いた隠匿情報検査における強化型プロトコルの検討

犯罪捜査の実務で用いられる隠匿情報検査は心拍等の自律神経系指標に基づくものですが、センサーの装着や長時間かかること等の制約もあります。その制約がかからない指標として着目される反応時間に焦点をあて、その検査精度をどう上げられるかについて検討した研究でした。海外で検討されている強化型プロトコルという手法を日本語に適用できるかについて精緻に検討し、日本語ならではの問題点を見出す等、意義ある成果が発表されました。

最終試験ですから、それぞれ担当の主査と副主査から鋭い指摘や質問が飛び交います。それでも、発表者は持ち得る知識と経験をしっかりと言葉にし、応答することができました。

<主査や副主査の質疑に対し、応答する発表者。それぞれ、緊張しながらもしっかり乗り越えました。>

公聴会には、大学院1年生の他、進学が決まっている学部生や希望する学部生、研究に興味を持った学部生が多く参加していました。発表者の姿は、後に続く彼ら後輩たちにも頼もしく輝かしく映ったことと思います。最後に記念写真を撮りました。

<終了後は満面の笑みで記念撮影です(撮影時のみマスクを外しています)。>

最終試験を無事終えた2年生は、4月から新しい生活をスタートさせます。分野は様々ですが、2年間、講義や実習を通して学んだ知識やスキル、研究を通じて掴んだ科学的思考や分析力を大いに活かしながら、羽ばたいてくれるでしょう。

公認心理師制度が始まって5年。心理職に求められるものは今後ますます増えていくのではないかと思います。皆さんなら、その一つ一つに真摯に向かい合い、1人でも多くの人を支援できるものと信じています。2年生の今後に幸多からんことを祈ります!

 

学長から一言:大学院人間科学研究科心理臨床学専攻の修士論文の最終試験である公聴会は、院生の皆さんにとって最も緊張する場でしょう。論文のテーマはいずれも興味深く、本格的なものばかり。質疑応答もきっと真剣勝負の厳しさが漂っていたことと推察します。それを無事に終えた皆さん、本当にお疲れ様でした。次の目標に向かって大いに羽ばたいて下さい。