【海洋生物科学科】因島を拠点にブルーカーボン研究を展開中!
海洋生物科学科では、2022年度から地域企業と連携して因島で藻場造成研究を行っており、先日は尾道市や企業から多くの方が現場を見学に訪れました。この研究の様子を、研究担当者の一人でもある学長室ブログメンバーの山岸が紹介します。
ブルーカーボンとしての藻場の価値に社会が注目
潮が引いた時に海岸に行くと、岩場にはヒジキやアオサなどの海藻が、干潟や砂地にはアマモなどの海草が生育する様子を見ることができます。海藻や海草が生育する場所は「藻場(もば)」と呼ばれ、多くの魚介類の生活場、産卵場、稚魚の育成場として役立っていることが知られています。
さらに藻場は地球環境に果たす役割も期待されています。
現在「地球温暖化」が問題になる中、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現が世界的な課題となっています。そのための方法の1つが、植林や緑化によって植物に温室効果ガスを吸収させることです。こうした陸上の植物が吸収する炭素はグリーンカーボンと呼ばれます。
一方、海の植物である海藻やアマモの藻場もCO2を吸収・貯留する働きを持つことから「ブルーカーボン」と呼ばれ、これを増やすことは地球温暖化対策に貢献するものとして注目が高まっています。
穏やかで浅い瀬戸内海には干潟が多く、アマモによる藻場(アマモ場)がよく発達します。しかし、そのような浅海域は埋め立てなどの開発の対象になりやすく、瀬戸内海のアマモ場は大きく減少してしまいました。各地でアマモ場の再生が求められています。
地元尾道市はアマモ場事業に力を入れています。浦崎町などで人工干潟を造成しており、そのアマモが吸収するCO2量をクレジット化して企業などに販売する「ブルーカーボン・オフセット事業」を展開し、4月以降に実際にクレジットの販売を行う段階にまで進展しています(メディアでも報じられており、読売新聞オンラインの記事はこちら)。
福山大学と因島の企業が共同でアマモ場研究を開始
2022年に、地元因島の企業である株式会社トロムソから、これまで因島キャンパスで研究を展開してきた福山大学と共同で、ブルーカーボンとしてのアマモ場を造成する研究を行いたいと声をかけていただきました。福山大学からは海藻を専門とする山岸教授と、藻場にすむ海洋動物を専門とする金子教授が参加し、私たちもアマモそのものを研究対象とするのは未経験でしたが、地域貢献や新たな研究の展開につながることを期待し、因島でアマモ場造成技術の開発を目指した研究をスタートさせました。
海岸調査には、トロムソの担当者と私たち教員とともに、研究室の4年生も卒業研究として参加し、一緒に取り組みました。毎月大潮の干潮の時間に合わせて調査海岸に出向き、天然アマモの生育状況の調査や環境測定、実験区の設置などを行いました。
因島キャンパス前の海岸には、写真のようにアマモ場が広がっていますが、水の動きが大きいなどの要因でアマモがほとんど生育していない場所もあります。今回そのような場所に、生分解性の素材を利用した実験区を設置し、アマモが生育できる環境を作り出す実験を試みています。
本研究は、2022年11月に福山大学とトロムソの共同研究として正式に締結されました。
この研究に携わった海洋植物科学研究室の4年生2名は、卒業研究として1年間のアマモ場研究の成果をまとめ、12月には卒業研究発表会(ブログ記事)で発表し、1月には卒業論文を提出しました。現在、卒業までの間、研究室に配属予定の3年生に実験の引継ぎを行っています。
因島で調査現場の見学会を実施
2月には、トロムソの呼びかけにより因島で調査現場の見学会が行われました。参加団体は中外テクノス、東レ、ヤマハ発動機、NTTデータ、尾道市役所、ひろぎんエリアデザインなどです。干潮に合わせて、早朝7時頃からの開始にもかかわらず、多くの方が熱心に見学されていました。
実験区の見学後は、中外テクノスによる水中ドローンを使ったアマモ場の観察が行われました。モニターに映し出された水中のアマモの様子に、参加者の皆さんも興味深々の様子でした。今後、こうした様々な団体と連携した研究の展開が期待されます。
因島を拠点とするアマモ場の研究は、まだ始まったばかりです。自然や生き物相手の研究は難しさも多いですが、今後も1つ1つ課題に取り組みながら、藻場造成の研究を進展させていきたいと思います!
学長から一言:二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする脱炭素ないしカーボンニュートラルの目標に向かって、陸上の植物が吸収する炭素を指すグリーンカーボンと並んで重要視されるのが海藻が吸収する炭素を指すブルーカーボン。地球温暖化対策の救世主である海藻の一つのアマモに注目し、アマモを増やすための様々な研究に最大級の声援を送ります。