【海洋生物科学科】泉講師が『なぜテンプライソギンチャクなのか?』を出版!

この度、海洋生物科学科泉 貴人講師が、学生時代からの10年間の研究成果を興味深くまとめた書物『なぜテンプライソギンチャクなのか?』を出版しました。泉講師がこの本の内容を熱い思いを込めて紹介します!(投稿はブログメンバーの山岸)

 


イソギンチャク学者、渾身のエッセイ

この度、拙著『なぜテンプライソギンチャクなのか?』(通称『なぜテン』)が出版となりました。本書は、世間で知る人ぞ知る「テンプライソギンチャク」を発見して新種にした筆者が、イソギンチャク研究を始めてから現在までを面白おかしくまとめたエッセイです。

本書は4章構成で、

第1章:「ひと夏の出逢い、そして伝説の始まり」

…東京大学の学部時代に“テンプライソギンチャク”を研究してから、初めての新種記載論文を書き、世間に注目されるまでの立志伝

第2章:「震える極寒の海の“亡霊”」

…大学院に進学した修士課程の頃、北海道の干潟で絶滅が疑われていた“亡霊”のようなイソギンチャクを掘り当てた冒険談

第3章:「最高のパートナー、その名は水族館」

…博士課程の時、沖縄美ら海水族館の裏側で、15年間飼育されていた怪物のような珍種“チュラウミカワリギンチャク”を新種と突き止めた奮闘記

第4章:「よろずの研究の果てに…」

…博士号取得後、コロナ禍や多忙を乗り越えながら、ついに日本人初の偉業、新科設立を成し遂げるまでのサクセスストーリー

となっており、加えてプロローグ・エピローグなどから構成されています。サブタイトルだけでも面白そうでしょ?

(因みに、プロローグはこちらで全文公開されていますので、是非どうぞ!)

『なぜテン』表紙。イラストレーターさんの描いた著者の肖像画が、実にリアルです。

世界的な発見の連続 ~日本一の学者になるまでの10年~

最初に自慢から入りましょう。この泉は生物学において、日本初、および日本で一番の記録をいくつも保持しております。

例えば、泉はいままでイソギンチャクの新種を24種発見していますが、これは歴代日本人でぶっちぎりのトップ!(しかも、亡くなった方を含めてですからね。) そして、イソギンチャクにおいて「科」を設立したのは、日本人で初めてです。

本書の主役の一つは、泉が発見した、そんな愉快なイソギンチャクたち。この画像をご覧いただきたいのですが、本当に色とりどりで綺麗、それでいてミステリアスな連中です。本書の中には「イソギンチャク図鑑」と題して、泉がかかわってきたイソギンチャクを図鑑形式でお届けしています。世界で初めて図鑑に載る、そんなイソギンチャクばっかりです(マイナーなグループばかり研究してきたからですが…)。なんと、巻末にはカラーページの図鑑もあります。

そして何より、泉のこだわりは新種に名付ける特徴的な名前!前述の「テンプライソギンチャク」「チュラウミカワリギンチャク」に加え、「イチゴカワリギンチャク」「リュウグウノゴテン」「ウミノフジサン」…嫌でも記憶に残る、そんな名前を与えています。名前は、その生物のアイデンティティそのもの。本書では、テンプライソギンチャクをはじめ、イソギンチャクの名づけに関する爆笑ウラ話も満載!

本書を記念し、晶文社さんが作ってくれたポスター。福山大学売店にも置かれています。

「研究楽しい!」では終わらせない ~赤裸々に描写した人間模様~

同時に、本書の主役は、他でもないこの泉自身でもあります。すなわち私の研究人生の、毒舌を交えた赤裸々な描写も大きな特徴です。

“研究者”“学者”という言葉はよく聞けど、それがどんな存在なのか、そしてどのようにして研究者になるのかという情報は、世間にはほとんど流れていないと思いませんか?「ならば、それを赤裸々に書いてやろう!」と思い立ち、泉の立志から大学院での修行、そして研究者として身を立てるまで、エピソード満載でお送りしております。今までの研究は確かに楽しかった、しかし、楽しいだけでは決してここまで来られなかった。そんな苦労談もたくさん織り込みましたので、若手研究者の“いきざま”を感じてください。

加えて、各章末に据えたコラムでは「アカデミア(研究者の世界)に飛び込む苦悩」「博士号審査会の脅威」など、研究者の世界でしか聞けないようなウラ話や、公開ギリギリのエピソードも盛り込み、まさに“現場目線”で研究者の世界を描写しています。泉の研究人生を通じて、そういった所もお楽しみいただきたい!

…というか、ぶっちゃけ、この本の書き口には、全く遠慮がありません。こともあろうに、我が愛しの福山大学にすら、ダメ出ししているところもありますからね(笑)

本書のサンプル。生物に馴染みのない人にも読めるようになっています。

教科書であり、指南書であり、滑稽本でもある!

さて、散々エッセイを宣伝してきましたが、この本はそもそも“書物ではない”ことを添えておきましょうか。“…は?”と思われる方が多いかもしれない。実は、泉はもともと、東京大学落語研究会に所属するアマチュアの落語家でした。『なぜテン』は、その落研での経験を存分に活かし、全編ギャグテイストで“語り倒した”本なのです。

一気にイロモノな感じが強くなりましたが(笑)、同時にこの本には、教科書にもなるような珠玉の知識を詰め込みました。分類学の基礎知識、イソギンチャクとは何か、そして標本の作り方…この本を読むだけで、学問の入り口に立つことができます(いずれ、私の授業の教科書にも指定しましょうかね)。さらに、上記のコラムに関しては、「博士になりたい!」というお子さんや、「研究者を目指している!」という学部生・大学院生にも、大いに参考になる指南書でもあります。

…つまるところ、どんな人でも楽しめて参考になる、実に欲張りセットのような本となりました!

著者(Dr.クラゲさん)と『なぜテン』。研究室にて。

断言します。これ以上の本は、この泉といえども10年は書けないでしょう!

出版社の紹介サイト

詳しくは、泉のYouTubeチャンネルでも本書の情報をまとめていますので、みなさま要チェックですよ!

なお、理事長、学長への著書贈呈の様子はこちらの記事をご覧ください。同時期に出版された、生物科学科の佐藤先生の著書もご一緒に是非!

 

学長から一言:抱腹絶倒の学界裏話にして、そんじょそこらの教科書顔負けの専門的知見の詰まった書物。楽しさと専門性の二面性を兼ね備えた泉講師の近著に揺り動かされた読者の一人です。自慢話っぽさが少々鼻につき、手厳しい評価が気になる方も、熟読玩味すれば、著者のナイーブな感性が見えてくるはず。多くの方の目に触れることを願う好著です。