【心理学科】包括的セクシュアリティ教育って?
子どもの安全を「性教育」の観点から考えることも、とても大切です。
本日は、発達心理学研究室の学生が実施した「子どもの安全を守るための性教育授業」について、心理学科の赤澤淳子教授からの報告をお届けします(投稿は学長室ブログメンバーの大杉です)。
心理学科の赤澤です。
発達心理学研究室3年生の学生が、「包括的セクシュアリティ教育」を実施しましたので、報告いたします。2022年12月16日(金)に三原市立本郷西小学校で、12月23日(金)にどうえん尾道中央認定こども園にて実施しました。
皆さんは、「包括的セクシュアリティ教育」という言葉を聞いたことがありますか?UNESCO、国連合同エイズ計画、国連人口基金、UNICE、およびWHOによって、2009年に発表された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」という本の中で、「包括的セクシュアリティ教育 (comprehensive sexuality education) 」は以下のように定義されています。
学習者がその地域の文化に合ったポジティブなセクシュアリティ観や性と生殖に関する健康を実現するための知識、態度、スキルを身につけるための教育
海外では、包括的セクシュアリティ教育が学校を基盤として行われています。年齢(5~8歳、9~12歳、12~15歳、15~18歳以上)ごとに教育目標が掲げられ、それぞれの目標にあった知識、態度、およびスキルが定められています。
日本においても、児童が性的虐待や性犯罪に巻き込まれる数の増加や、2017年以降に世界に広まった# Me Too運動などの影響を受け、 2020年に「性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議」において、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」が決定されました。
この方針を踏まえ、文部科学省は内閣府と連携し、児童が性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないための「生命(いのち)の安全教育」の教材及び指導の手引きを作成しました。これらの教材は、幼児期、小学校低・中学年、小学校高学年、中学校、高校、高校卒業直前・大学・一般といった発達年齢ごとに作成されています(教材は文部科学省のホームページに掲載されており、誰でもダウンロードすることが出来るようになっています)。
発達心理学研究室では、文部科学省の教材を参考にしながら、5~8歳向けの「子どもの安全の守るための性教育授業」を作成し、こども園や小学校低学年の幼児・児童向けに実施しています。
三原市立本郷西小学校では、1年生と2年生を対象に、授業を行いました。
<三原市立本郷西小学校での授業風景>
どうえん尾道中央認定こども園では、5~6歳児を対象に、授業を行いました。
<こども園での授業風景>
授業では、人に見せたり触らせたりしてはいけない「プライベートゾーン」についての説明と、「いいタッチ、わるいタッチ」について説明しました。当日は、パペット人形も参加し、子どもたちには大人気でした。
<パペットも大活躍>
幼児も児童も、授業の間、集中して大学生の話を聞いてくれました。また、資料を配布する時にも、「ありがとうございます」と言って受け取ってくれる児童もいて、その礼儀正しさに感激しました。
以下は、授業を行った学生の感想です。
- 高城琴羽さん(広島県立呉三津田高等学校出身)
今回、小学校とこども園で「子どもの安全の守るための性教育授業」を実施してみて、子どもたちにわかりやすいように伝えるためにゆっくり話してみたり、こちらへの注意を引きつけるために問いかけたりと様々な工夫をしながら授業をすることを心がけました。子どもたち全員に伝えることは大変ではありましたが、無事に終わることができ、また、自身もリハーサル等を通して改めて学ぶことができ、とても貴重な体験になりました。この授業を受けた皆さんが、自分の身を守れるようになってくれたら嬉しいです。
- 藤井愛美さん(福山市立福山高等学校出身)
私は「いいタッチと、わるいタッチ」について説明し、「人にしていい・されていい身体への触り方」や、「したらダメ・されたらダメな身体の触り方」を児童ひとりひとりに考えてもらいました。小学校低学年が対象だったため、伝わりやすいように問いかけるような話し方をしたり、興味関心を高めるためにクイズ形式で答えてもらったりするなど工夫しました。その甲斐あって、児童の皆さんが元気よく反応してくれたためとても授業が進めやすかったです。この授業を受けた皆さんが相手の気持ちを考えて人と関われるようになったり、自分も大切な存在で、雑に扱われていい理由はないんだという意識を持ってくれたりするようになったら嬉しいです。
- 松野未奈さん(広島県立三原東高等学校出身)
私は小学校での授業を担当しました。今回実施させていただいた小学生たちは積極的に発表をしてくれたので、私自身もとても楽しみながら授業をすることが出来ました。また、授業内で、子どもたちが私にはない発想や意見を発表してくれて、小学生の子どもたちの考え方を学ぶことが出来ました。今回伝えた知識は自然と身につくだろうと考えずに、言葉で「なぜダメなのか」を伝えることが大切なのだと実感しました。また、今回実施させていただいた小学校の校長先生は、私が小学生時代に算数を教えていただいた先生でした。私が算数を好きになったきっかけを作ってくれた恩師との再会は大きな喜びでした。
海外と比較すると、日本国内の性教育は充実しているとはいえないのが現状です。今後も、発達心理学研究室では、あらゆる世代の健康や安全を守るといった意識が社会に定着するよう、「包括的セクシュアリティ教育」の普及に貢献していきたいと考えています。
子どもが自ら身を守ることも求められる現代において、セクシュアリティの知識を正しく持つことはとても重要なことです。その知識の普及を大学生が担うことにもまた、大きな意味があると思います。1人でも被害に遭う子どもをなくすために、より多くの子どもたちに、よりよい授業が届けられることを願っています。
学長から一言:さまざまな活動を通じて、地域の子ども達の安全を考え、専門性を活かしながら啓蒙活動を続けている心理学科の皆さんが、今回は「包括的セクシュアリティ教育」を小学校と認定こども園で実践。どうすれば年齢に合った説明ができるか、より深く理解してもらえるか、さんざん試行錯誤したことでしょう。子ども達に教えるつもりが、ぜーんぶ自分に跳ね返って来るのを感じたのではないでしょうか。