【人間文化学科】備後圏域経済・文化研究センター文化部門主催 シンポジウム「「福山義倉」の文化的ネットワークとその継承―菅茶山と井伏鱒二を軸に―」 のお知らせ

 備後圏域経済・文化研究センター文化部門では、今年度は「福山義倉」を主題として、文化フォーラム4回の講演会と地域資料活用研修1回での連続講演会を行い、その集大成として、11月30日にシンポジウム「「福山義倉」の文化的ネットワークとその継承―菅茶山と井伏鱒二を軸に―」を開催します。つきましては、シンポジウムについてのお知らせとその関連行事、文化フォーラム第2回と第3回、および10月26日の地域資料活用研修2024の実施報告について、青木がお伝えします(投稿はFUKUDAI Magメンバーの古内)。

 

 


1、文化フォーラム2024「「福山義倉」とその成立背景―近世備後の互助システムと文化的ネットワーク」

 まず、シンポジウム事前行事についてご報告します。同センター主催文化フォーラム2024「「福山義倉」とその成立背景―近世備後の互助システムと文化的ネットワーク」4回のうち、第1回~第3回を、9月21日、10月12日、同19日に、および、同26日に地域資料活用研修2024「江戸後期・福山大庄屋の知恵に学ぶ―信岡家文書から見えること―」をそれぞれ開催し、いずれも盛況の内に終了しました。

 ※本研究は、福山大学ブランド研究「瀬戸内の里山・里海学」の一環です。
  また、本研究は、三菱財団人文科学研究助成を受けています。

 

 第1回 こちらから。

 第2回は、広島経済大学准教授・平下義記先生に「「諸国無類」の義倉運営―「福府義倉」の独自性について」と題して、経済的な面からの「福府義倉」の特徴について最新の研究成果からお話いただきました。その独自性は、第一に元出資者の豪農商層(後、調達人)が会計を管理し、藩や村役人への交渉を担い、「義倉」の仕組みを通して藩、領民のそれぞれの利益となるように調整する機能を果たしたこと、第二に余剰金の使途として、救貧の他に、神道・儒学・仏教の講習に関する費用、領内医者の修行料(奨学金)、領内「旧家」の復興支援など、地域の生活について多面的な支援を含んでいたことなどが挙げられており、「国用」という地域生活の維持存続への幅広い目配りについて、指摘がありました。1804年から続く地域互システム「福山義倉」の貴重な性格が窺われます。

 第3回は、本学人間文化学科清水洋子准教授に「菅茶山の福祉思想」と題して、「福府義倉」の命名者とされる菅茶山の「福祉思想」について、菅茶山の「経説」(論文)を通して話していただきました。茶山は、身分的秩序を重んずる「礼」を、国家を治めるための第一とはするのですが、同時に、礼楽を「聖人天下をおさめたまへりし法」とし、「楽」の「効用」を強調したということです。そして、政治についての意見書においては、「恒の産なけれハ恒の心なし」という孟子の言葉を挙げて、経済的豊かさを心の安寧の土台としていたことを指摘されました。一方、貨幣経済が発展して散財に心を費やすものが多い風潮の中で、父母妻子を心よくさせ、安心させて身分相応に生活させることが「第一のたのしミ」と家庭生活の安定を人生の楽しみの核としたことを挙げられました。このように見てくれば、茶山の考えていたありうべき生活のあり方を示す具体的な形が見えて来るようです。経済的安定は必要とはするものの、贅沢な暮らしには反対しており、身近な生活の中のほのぼのとした楽しみを描く茶山の漢詩の世界が思い浮かべられます。

 10月26日の地域資料活用研修2024では、ひろしま文化功労者で元新市歴史博物館館長の山名洋通先生に、「江戸後期・福山 大庄屋の知恵に学ぶ地域運営」と題して、義倉の立ち上げの際の調達人の中心的メンバーである信岡家の古文書を通して、当時の大庄屋のくらしぶりについて話していただきました。その住環境、生活時間帯(朝は日が昇る前に出立して城下へ行く、夜は夜なべで作業があるなど)、年中行事、生涯の時間的進行(生まれて7日間は産着を着せられない、3歳、5歳、7歳、15歳庄屋就任)などの多面的な視点から具体的に話されました。その中で見えて来たのは、庄屋は日々の現実的対応に追われて、日記を書く暇もなく、本を読む暇もない状況にあり、しかも「横社会」のリーダーとして常に地域の全体的な状況への目配りをする必要があり、自分のことを垣間見る暇もない、というような厳しい生活ぶりでした。幕藩社会を支える土台の力は、このようにして鍛えられていったのでしょう。

 以上のように、これまでの文化フォーラムで「福山義倉」の成立基盤について、多面的にお話いただき、理解が進みました。

 第4回:11月16日(土)は、福山平成大学の市瀬信子先生(中国文学専攻)に民衆教化のあり方について話を聞きます。本学寄託資料「備前邑久岩佐家旧蔵書」の中の「孔子家語」(孔子にまつわる挿話を集めた説話集で、日本でよく読まれた)と、菅茶山の蔵書の中の同書の書入れを比較して、そこから見えて来る、備後における朱子学の教材の読まれ方を見ていきます。

 

2、11月30日開催のシンポジウムの主旨

 本シンポジウムは、2021年度に実施した創設記念シンポジウム「コロナ後の地域社会を考える:危機と社会・文化」の継続テーマとして、センター文化部門が研究を続けてきたもので、全国的にみても稀有な「互助システム」である「福山義倉」の設立経緯と活動の現代への継続の背景について、調査研究の中間報告と、現代社会への問題提起を行います。

 「福山義倉」の時代背景として、寛政の改革における「寛政異学の禁」による全国的な儒学教育の普及があります。その中で、「福山義倉」設立の基盤として、菅茶山の廉塾の周辺に生じた人的ネットワークがあります。本シンポジウムでは、まず、福山義倉のシステム構築に影響を与えた中井竹山の経世論、菅茶山の福祉思想との関連性からその仕組みの特徴について考察します。シンポジウムの始めには、大阪大学懐徳堂センターの中心的存在として研究を続けて来られた大阪大学名誉教授・湯浅邦弘先生の基調講演「中井竹山の経世説」をいただきます。さらに、研究報告後半では、江戸後期に確立された地域の互助システム運営の精神が、廉塾終焉後の明治・大正期にどのように継承されたのか、作家・井伏鱒二の生家周辺の興譲館を中心とする人的ネットワークとの関連性に展開します。

 

【シンポジウム】

  11月30日(土) 13:00~16:30 

           13:00~13:10  開会のあいさつ (大塚 豊学長)

                                      13:10~14:00     基調講演 湯浅邦弘氏 「中井竹山の経世論」

            14:10~16:30 研究報告

           問題提起 青木 14:10~14:30  江戸後期備後圏域における地域運営と

                             文化的ネットワーク

           報告1  清水 14:30~14:55  菅茶山の福祉思想

           報告2  市瀬  14:55~15:20  近世の朱子学受容

           報告3  柳川  15:20~15:45  近世庶民による「救恤」の絵画化と継承

           報告4  前田  15:45~16:10  近世近代移行期の文化人の文学的ネットワーク

           まとめ  青木  16:10

           16:30      閉会

 

【展示について】

  11月29日(金)・30日(土)11:00~16:00  福山大学社会連携推進センター802

    『「福山義倉」と儒教教育―「備前邑久岩佐家旧蔵書」から』

    「福山義倉」に関する展示、及び江戸時代後期の儒学教材(本学所蔵他)の展示

 

 

学長からの一言:備後圏域経済・文化研究センターの文化部門が日頃の研究の成果を地域社会に還元するために開催してきた4回シリーズの「文化フォーラム」も残すところ明日(11月16日)のあと1回。地元備後の近世における学問や社会の在りように関心のある方々には、たまらない学びの機会となったことでしょう。加えて、その総まとめ的な意味も込めたシンポジウムが月末に開催。大いに楽しみです。