【☆学長短信☆】No.38「基準日に退学率を考える」

 入学式を彩った桜の花が散り新緑の美しい葉桜の季節を迎えたと思ったら、キャンパスではもう色とりどりのツツジの花が桜に代わって目を楽しませてくれています。今日5月1日は労働者の国際的な祭典メーデーであるとともに、毎年取り纏められる学校基本調査の基準日に当たり、本日の統計が当該機関の実情を示すものになります。在籍者数や最終的な就職率などと並んで、いつも気になるのが退学率(正確には、自主的に大学を去る「退学」と何らかの理由による「除籍」を加えた「離籍者」の人数や率)です。本学では当該年度の離籍者が在籍者総数に占める比率を2%以内に抑える目標ないし方針を定めています。

 ここ暫くの間の関連数字を見てみると、2017年度以降の比率は2.5%、2.4%、2.2%、1.8%と順調に低下して来ていましたが、2021年度は2.5%、2022年度は2.4%と、再び2%を越えてしまいました。これにはおそらくコロナ禍が影響したものと思われます。退学を希望する学生はその理由を記した願い出に保証人とともに署名して提出し、それに対して担任や学部長が所見を記載した上で学長までの決裁が行われます。その書類にコロナ禍との直接の関係に言及した記述はこの数年それほど多くありませんでしたが、授業料分納の願い出の理由はほとんどがコロナ禍による家庭の収入減でした。2023年度に関して、退学者が91人に上りました。在学生総数の2.6%に相当する人数です。昨年9月に半年が経過した時点での累計数は24人、12月までに44人を数え、例年より幾分多めで心配していました。在籍者総数が少し減っていることから、結果的にここ数年では最も高い比率になってしまい、残念ながら上記の目標を達成することができませんでした。

 勉学の志を抱いて本学に入学した学生については、一旦入学許可したからにはしっかりと面倒を見て、できることなら卒業証書あるいは学士号をはじめとする学位をとらせて送り出したいと思います。しかし、現実には、さまざまな理由で学業の中途で退学していく学生がいます。学業不振を理由に大学を去ろうとする学生には、その前に十分な指導を行う他、適性をよくよく考えて、学内の他学部・学科への移籍も含め、何とか事態を挽回できる方法を講じたいものです。いずれにしても退学は、①本人の前途において往々にしてマイナスに働くほか、②大学にとっては収入減となり、さらに③大学の評価を下げることにもつながりかねません。学業中途の退学、とくに3年次末あるいは4年次の高学年になってからの退学は何とも惜しく、学生本人にとって圧倒的に不利です。

 学業不振、なかでも「学ぶべき目標を失ったので」と退学理由に書いてある場合があります。また、種々の発達上の障害や精神的な問題をかかえて通常の学習がきわめて困難であることが入学後に初めて判明するケースもあります。さらに、上記のように、コロナ禍により深刻さを増しましたが、経済的な理由で泣く泣く退学していく学生もいます。学生の経済的窮状を大学や教員として救える途は限られています。しかし、これに関して本学は在学者の約3分の1に当たる人たちに対して、所定の学業成績水準を満たしている場合には、大学独自の返還不要な奨学金を(授業料減免という形で)在学期間中ずっと支援し続けています。寛大な本学の法人に感謝するばかりです。大学は営利企業ではありません。他方、施設の新増設や人件費など莫大な経費支出が必要です。赤字は無論望むところではないにしても、なんとか経営を維持できる範囲で進むのが非営利の教育機関のあるべき姿であり、本学はそれを実践していることを感じます。

 さまざまな理由から中途で方向転換や退学を希望する場合、上述のとおり、担任や学部長の所見を目にすることになります。その所見欄の記述は、書いた人の人柄を表すような実に丁寧な書きぶり、あるいは前後の事情が分かりやすく記述されたものがある一方、ごくごく短く、素っ気なく感じる場合がないわけではありません。後者の場合、学長短信No.21「担任制について」でもちょっと触れたのですが、私は決裁の押印の前に、今さら結果が変わるわけでもないがと思いつつも、つい当該の担任に電話して事情を聴いてしまいます。直接話して見て、ごく簡単な所見の裏に、さまざまな苦労や配慮があり、方策を講じた末に万策尽きたことを発見する場合が少なくありません。

 海外に目を向ければ、ランキングや世間の評価を度外視すれば、入学したい人を容易に入学させる大学もあります。アメリカのコミュニティカレッジのように入学のためのハードルがかなり低く、そこでの修学を経由して本格的に有名大学へ転学するルートを選ぶ学生も少なくありません。但し、そうした大学でも、ほとんどの場合、入学後には厳しい学習が求められ、ついて行けなければ即除籍・退学になります。大学は義務教育ではないのですから、何としても卒業まで面倒を見なければという配慮は働かないからです。学生確保のために誰彼なく入学させ、入学後もしかるべき教育を行うことなく、学生に何となくのんべんだらりと卒業までの時間を過ごさせるようなことは決して許されません。本学は創設当初から「入りやすいが出難い大学に」(第1回入学式での宮地茂初代学長式辞)を目指そうとして来たと理解しています。少子化の波が否応なく押し寄せようが来まいが、本学は終始一貫この方針を堅持しているつもりです。今年度は退学率に関して設定した目標を是非とも達成するだけでなく、できる限り低い数字に留めるよう、学期初めから間もない今の時期にこそ、改めて気を引き締めたいものです。

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