【☆学長短信☆】No.15 「大学田での田植えの季節が到来!」
本学に赴任後の良い意味でのカルチャーショックは、秋の三蔵祭(大学祭)での全学挙げての餅つきでした。ここ2年間はコロナ禍の下での感染防止のために実施できず、残念で仕方ありません。学生と教職員が石臼と杵を使って和気藹々と餅をついて味わい、収穫の喜びを分かち合ったのは、何と楽しかったことでしょう。聞けば、使っていた餅米も創立以来の40年余り、キャンパス内の一角にあった大学田で学生と教職員が一緒になって丹精込めて作ったものとのこと。ただ、長い時間の流れの中で、かつては体育の授業の一環として行われていた時期もあったという田植えや稲刈りも、参加するのがほぼ生物工学科だけというように、ごく一部分野の学生に偏るようになるとともに、大学田の地力も落ちて行きました。長年の伝統の維持に黄信号がともり始めていました。赴任から4年目の2017年です。
この素晴らしい伝統の灯を消したくない。そこで思い立って急きょ立ち上げたのが稲作研究同好会、略称「稲研」です。伝統の継承維持に関して同じ思いの法人によって、この時期に迅速に示された温かく粋な計らいは、大学からほど近い旧東村小学校のそばに位置する地元の約1反(1,000平米弱)の田んぼを借りて、地域の人々と一緒になり、地域と結びついた新たな伝統を作るというもの。本学が目指す「地域と結びついた大学」という観点から見て、最も身近な大学所在地の福山市東村町との連携を強固にする上で、これは大いに意義深いことです。東村町で学校給食の食材納入に携わっていらっしゃる若草会の杉原直道会長、廻野明倫事務局長をはじめ、大勢の地元の皆さんが心強い味方です。
上記の稲研発足時に会員集めのために私が作ったチラシの謳い文句が「福大創設以来の伝統の灯を守り続ける志のある若者よ、男女を問わず集まれ。どんな時代になっても生き残れる米作りの技と智慧を身につけたくないか。実際に田植えと稲刈りを体験したい人、秋に収穫の喜びを味わいたい人、そばで応援だけしたい人、みんな大歓迎」。かく言う私はシティボーイ(?)、米作りなど本学に赴任するまで一度もやったことがありませんでした。しかし、いにしえより日本人は、主食であり収穫までに多くの人の手を必要とする米を作る作業を通して共同体意識を培ってきました。本学の米作りも、協働することの意義を確認し、福山大学という共同体のメンバーであることの自覚を強めることが重要なねらいであったはずです。
と、能書きはこれくらいにして、毎年この時期には上記の稲研の仲間やボランティア参加の学生、教職員によって田植えが行われます。この何年かの間にもいろんな事がありました。初めて田んぼに素足で入った人が多く、その感触にびっくりして、思わず大声を出したり、ふざけているうちに田んぼに倒れ込んで泥だらけになったりした学生もいました。やる気満々の雰囲気の中で、「はーい、プラント(植えて!)、一歩下がって、足跡消して」と、拡声器から聞こえる掛け声に合わせて手植えでの田植えが進んだものです。景気づけのBGMメドレーが流れたり、飛び入り参加の留学生やアメリカ人ティーチング・アシスタントも混じって、国際色豊かな田植えになったりした年もありました。コロナ禍に見舞われてからは、参加人数を極々絞り、ほとんど田植機を使っての機械植えで済ますようになってしまったのは、仕方のないこととはいえ、悔しくてなりませんでした。
植えた後の管理は、時々見回りに行く以外は、ほとんど上記の若草会のメンバーのお世話になっているのですが、柔らかい稲を好んで食べ、あっと言う間に水田を食い荒らしてしまうジャンボタニシという伏兵に悩まされた年もありました。というのも、大学の田んぼは無農薬で安全安心な米作りを目指しているからです。この大型の巻き貝は1981年に食用にと海外から持ち込まれたものの需要が伸びないまま野生化したとかで、成体は5㎝余りにもなるそうですが、稲の根本に生み付けた鮮やかなピンク色の卵は実に気味悪いものです。畦道からどうにか手の届くところで見つけた憎っくき貝をいくつ退治したことでしょう。
そして、今年も数日前の5月27日(金)に田植えを行いました。すでに夏を思わせる暑さの中、昨年の収穫米から残しておいた種籾を撒いて育てた苗が東村の皆さんによって準備されていました。当初、参加人数を絞って、稻研のメンバー(11名、部長は生物工4年の石岡綺音さん)が田んぼに入り、ごく一部を手植えした後、大部分は田植え機に頼るつもりでした。しかし、山本覚生命工学部長の声掛けで集まってくれた生物工学科からの26人の力強い助っ人が加わって、教職員も合わせると、なんと40名余りの参加人数になりました。そこで程よく育った苗を2時間ばかりは機械に頼らず大部分を手作業で植え、一部を機械植えする方法に変更して無事に田植えを完了しました。こうして植えた苗がスクスク育つとともに、実りの秋までにはコロナ禍が終息し、伝統の餅つきが復活することを願っています。