【生物科学科】「ニホンザルのハグ」についての論文を発表!
日本人にとってはちょっと気恥ずかしいハグ。でも海外では久しぶりにあった友人とハグで挨拶することは多々あります。何か自分が受け入れられていることが直接的にわかり、嬉しい気持ちになります。人と人は他人。他人同士でうまく付き合うための一つの方法なのかもしれません。そんなことがニホンザルの研究からわかってきました。生物科学科の石塚真太郎講師から、「ニホンザルのハグ」についての新しい論文発表の報告が届きましたので、同学科の佐藤が紹介します。
ニホンザルのハグ
みなさんこんにちは。生物科学科の石塚です。今回は年の瀬に発表したニホンザルの「ハグ」に関する研究についてご紹介いたします。ハグと聞くと何をイメージするでしょう?親密な人同士がするものというイメージを持っている人もいれば、欧米人の挨拶を想像する人もいるかもしれません。ニホンザルにおけるハグは、個体間の緊張を緩和する機能を有します。一方で、ハグは地域によっては見られないところもあり、抱き合い方も地域によって微妙に異なります。これらの地域差は、環境や遺伝子では説明できず、動物の「文化」として知られています。ニホンザルのハグは、これまでに4か所の純野生群で見つかっていたものの、数十年に及ぶような長期調査が継続されているところもある日本各地の餌付け群では見つかっていませんでした。
私は2021年に小豆島に約3ヶ月間滞在し、ニホンザルの行動を調査していました。群れのメンバーを一頭一頭識別し、順番に個体を追跡して行動を観察していたところ、たまたまハグを発見する幸運に恵まれたのです。そこでハグの定量的な記録を取り始めたところ、合計285時間の個体追跡の中で39例のハグを観察できました(図1)。興味深いことに、ハグが見られたのは一部の個体のみでしたが、そのほとんどが若いメスでした。動物の文化は、若い個体から集団全体に普及することが知られています。つまり、今回小豆島で観察したハグは、いわば文化の萌芽です。今後の観察により、ニホンザルのハグ文化や、その中の「小豆島文化」が明らかになれば大変興味深いでしょう。
本成果は、2024 年 12 月 21 日に国際学術誌「acta ethologica」にオンライン公開されました。
Ishizuka S (2024) Embracing behavior of Japanese macaques on Shodoshima Island. acta ethologica
https://doi.org/10.1007/s10211-024-00453-9
教育に活かす
今回の研究をはじめとし、生物科学科では動物の行動や生態に関する教育研究を推進しています。生物科学科の学生たちは、授業の中でサルを含む動物の個体識別の方法や(図2)、動物の行動の定量的な記録方法について学びます。自分の目で動物の行動を観察し、もの言わぬ動物の不思議を解き明かす喜びはひとしおです。そんな体験を欲する読者の皆さんは、ぜひ福山大学生物科学科にお越しください。
学長から一言:サル同士はハグするか、特定の個体に限られる現象か、地域によってハグの習慣が行き渡っている土地とそうでないところがあるか、習慣として定着するかどうか等々、事実を立証するには実に長く辛抱強い観察が必要なのでしょう。黙々と観察や研究を続け、ひとつずつサルの行動の秘密を解き明かしていく生物科学科の石塚真太郎講師の研究に心からのエールを送ります。