【建築学科】卒業設計優秀作品の教員推薦文
3/14(土)の学長室ブログでは、今年度の卒業設計優秀作品をご紹介しました。
今回の学部ブログでは、4つの優秀作品を、教員推薦文付でより詳しくご紹介したいと思います。
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卒業設計は、卒業研究同様に4年次の1年間かけて製作する大学4年間の集大成として位置付けられ、テーマや敷地、プログラム等も学生自身が設定し、それらをもとに建築的空間的提案を行い、最終的に図面や模型等でプレゼンテーションするものです。
卒業設計を成功させるためには、「如何にポテンシャルの高いテーマを設定するか」と言われています。
したがって、テーマ設定には学生自身の問題意識や社会に対する提言、世界観等が深くかかわるため、最終的に提示された建築や空間の「かたち」の根拠とその妥当性が問われます。
以下の4作品は、これらの点においても評価された作品です。
近代建築卒業制作2020掲載優秀作品 広島八大学卒業設計展上位10作品
美しい景観を持つ「牛窓」に、嘗てリゾート開発が行われ、その後水没し廃墟のようになっている土地がある。この土地は、堤防で海と区画され、排水ポンプの停止により雨水等が溜り、様々な問題を生じさせている。彼の卒業設計は、これらの問題を解決し、牛窓に相応しい場所にするための再生計画をテーマとした。まず、留水を浄化するため、堤防に敢えて穴を開け、海とつなげ自然の力を用いて恒久的な浄化を計画した。次に、敷地内に海水を引込むことで水位が変わり、その変化のデザイン化を考えた。干潮時と満潮時の水位の差に対して、木製床を25cm毎の高さに配置することで潮の満ち引きの変化を視覚化した。また、象徴的な塔を設け、敷地に影を落として一日の時間変化を視覚化した。形状はF.L.ライトの照明器具のタリアセンに類似しているが、木製床と同じプレートを積層している。塔自身にも、時間の変化により影が生じることで表情が変わり、敷地に落ちる影と共に敷地全体の象徴的存在になっている。設計では、周辺環境と建築、自然と建築との関係が問われるが、当作品は、潮の満ち引きと一日の時刻的変化という自然の営みを視覚化し、それをデザインに組込むことによって訪れる人に体験させ、地域の問題も解決している点が優れている。建築の自立性や建築の力に頼る作品も見られる中で、当作品は、自然と建築の共同作業によって美しい風景をつくりだしている作品として評価する。
(大島秀明)
記憶の伝承 過去から現在そして未来へ 太歳風丸
日本建築学会全国大会出展優秀作品 広島八大学卒業設計展上位10作品
福山には、過去に失われたまちが2つあった。一つは「草戸千軒町」、もう一つは「唐船千家の市」。「草戸千軒町」は洪水により芦田川に埋もれ、「唐船千家の市」は地震と津波により走島沖に沈んだ。
幸いにも、「草戸千軒町」は、発掘され、今は埋め戻されて直接触れることはできないものの、福山市の歴史博物館内に町並みを実物大で復元されている。
一方の、「唐船千家の市」は地元の伝承として伝えられているのみで、すでに忘れ去られようとしている。
彼は、「現代社会を生きる人間は、せわしない日常を送り続け、今を過ごすことに必死になりすぎ、自分自身が立っている土地の記憶を忘れている・・・様々な土地の記憶の積み重ねの上に自分自身が今生きているということを忘れてしまうことは、とても危険なことだ。」との思いから、「様々な土地の記憶の積み重ねの上に現在の自分自身が存在していることを再確認するために・・・自分自身を振り返り、自らを見つめなおすための空間を創る。」ことを目指し創りあげた作品である。
様々な記憶が重ねられた土地に立ち、自らの誕生までの膨大な過去の記憶を振り返り、自らの誕生からの生き様を重ね合わせ、未来へ続く道を歩んでゆく。
大規模な自然災害が続く今だからこそ、彼の構築した世界の中に入り、改めて自らを問いなおす機会が必要であろう。
失われたまちをきっかけに、「記憶の伝承」をテーマとしてかかげ、展開の論理性、秀でた造形力と日々の地道な努力の積み重ねによって生み出された秀逸な作品である。
(宮地功)
紡ぐ -知識と伝統の継承― 小田 嵩馬
日本建築学会中国支部優秀作品
小田君の卒業設計は、鳥取市佐治町に伝統工芸品の和紙が生産されているが、現在衰退しつつあり、その復興と活性化をテーマとした。敷地は、和紙に不可欠な水を利用するために、川添いにある和紙工房のある土地を選定し、プログラムとして和紙製造工房とともに、見学者や来訪者に対するギャラリーやワークショップと伝承を目的に宿泊しながら和紙作りを体験できる機能を組入れている。卒業設計では、テーマやプログラムに対して空間や建築をどのようにつくるかを考える必要がある。その手掛かりとして、先ず、敷地周辺の地形的特性として川、敷地、道路、山の構成が線形の層に構成していること、和紙の製造工程として線形的形状が適していることをもとに、RCの壁を層構成状に配置することを考えた。敷地環境からは一般的に木造系の構法を考えがちであるが、「2つの壁の間に空間が生まれる」という層構成への適合性を考慮し、彼はRC造の壁を選んだ。それを幾つか組み合わせることで、地形的特性や和紙の製造という機能的条件にも適合させようとした。結果的に、薄い紙編を重ね積層させてつくられる和紙そのものにも類似した形態になり、壁の長さや開口などを変化させ、各部分の機能的特性にも対応させている。建物全体は、一つの大きなボリュームではなく、壁の集合体による集落のような敷地周辺にも馴染むデザインとなっている。当作品は、テーマ、敷地条件、プログラム、空間や建築のつくり方という作業を誠実に行い、全体として環境にも適合した作品として評価する。
(大島秀明)
“白”の空間がカタチをつくる ホワイトキューブから創造する新美術館 白神 昭憲
日本インテリア設計士協会優秀学生賞受賞作品
3年次の設計演習の授業では美術館が課題として設定され、白神君はその課題に対し意欲的な作品を制作した。彼は、その経験もあり、卒業設計に美術館を選んだ。しかし、美術館のテーマ設定は難航し、幾つかのスタディーの結果、芸術作品のバックボーンとして無機質な白の立方体としての展示空間、つまり「ホワイトキューブの可能性」をテーマとした。「ホワイトキューブ」は、芸術作品を主役とするためにその背景に特化した空間であるが、それに空間性を持たせながら様々な芸術作品にも対応できる展示空間を考えた。その結果、1辺4mの立方体を基本形としてその壁や床をガラスにしたり、取外したりして6つの面を操作し、それらを連結し積層させることで様々な変化のある空間ができるのではないかと考えた。次に、「ホワイトキューブ」を連結し積層させる手法については、従来のプランニングのような人為的な設計手法ではなく、自然発生的な多様な空間とするため、最低限のゾーニング計画を行い、その後は、乱数を用いて偶発的な空間が生まれる設計手法を考案した。それによって生まれた多様な展示空間のなかから、各作家は自分の作品にあった空間を見つけ、作家固有の企画展示ができる。立体的な展示空間は様々な組み合わせがあり、作家の創造性をかき立てることになる。当作品は、現代美術館の展示空間として定型化されている「ホワイトキューブ」という無機質な空間に敢えて着目し、それを卒業設計に相応しいテーマに発展させている。さらに、その可能性を提示し、従来のホワイトキューブとは異なる豊かな空間性を持つ展示空間を提案した作品として評価する。
(大島秀明)