学部・学科・大学院

経済学科

佐藤 彰三(さとう しょうぞう)

職 名 教授
学 位 法学士
専門分野 地方財政
担当科目 地方財政論

地方財政の将来負担比率について

  我が国の財政は、景気状況から税収は増加しているものの、社会保障関係費等の増加により、公的債務残高が累増する危機的な状況とされ、平成30年度の地方税収は過去最高を記録したが、地方財政計画においては、社会保障関係費等が増加する中で、巨額の財源不足が続いている。
  平成13 年度以降、赤字地方債である臨時財政対策債の発行により一般財源総額を確保する状況が続き、平成30 年度末の地方財政の借入金残高は196 兆円、うち臨時財政対策債は54 兆円まで増加した。
  総務省によると、地方自治体の地方債などの負債と財政規模の割合である将来負担比率は、近年改善傾向にある。平成29年度決算において、早期健全化基準以上である団体数は、市区1団体のみであり、将来負担比率の平均は、都道府県173.1%、政令指定都市106.0%、市区13.7%、町村に至っては、充当可能財源等が将来負担額を上回る状況とのことである。
  この要因は、地方財政の借入金残高が横ばい状態にある中で臨時財政対策債が増加し、この返済額が地方交付税の計算上の加算要素となり、将来負担比率を算出する際に分母分子から控除されるためである。また、団体間の格差はあるものの、将来負担比率算定の分子から控除される財政調整基金や特定目的基金などの基金残高総額の増嵩も数値の改善に寄与している。
  しかしながら、地方交付税原資の総額確保はおぼつかない状況にあり、交付税措置がなされた地方債の償還時に実際に地方交付税の交付額が増加するかは定かでない。一方で、財政調整基金はまだしも、特定目的基金が将来負担の償還財源とは考えにくい。
  近年、国においては総合経済対策や増税対応の臨時・特別措置など、地方においては地域社会の維持・再生としての人口減少対策など、従来の行財政手法では推し量れない政策・施策が展開されつつある。
  したがって財政指標のみに頼ることなく個々の自治体の実態を把握し、見守る姿勢が必要である。幸い近年は、地方財政の情報開示が進んでいる。総務省から統一的に開示される決算カードや財政状況資料集、各団体においても財政関係資料など、より分かりやすくなるよう様々な工夫がなされている。我々住民は将来負担比率に限らず、それぞれの団体の財政状況について情報収集を行い、分析する必要があり、将来を支える若者にとっては、なおさらしっかりと取り組むべき事柄であろう。

国や地方自治体の将来と若者の政治参加について

  我が国では、本格的な少子高齢化、人口減少社会を迎え、さらには社会的格差が拡大する中、合意形成が困難な課題が増大している。これらの喫緊の課題に加え、将来に繋がる多様な課題にも、的確な対応を図っていかなければならない。
  総務省によると、国政選挙の年代別投票率は、平成29年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙では、全年代を通じた投票率53.68%に対し、10歳代が40.49%、20歳代が33.85%、30歳代が44.75%となっており、令和元年7月に行われた第25回参議院議員通常選挙では、全年代を通じた投票率48.80%に対し、10歳代が32.28%、20歳代が30.95%、30歳代が38.76%である。
  福山市における参議院選挙の投票率は全国を下回り、全年代を通じた投票率42.60%、10歳代が21.43%、20歳代が21.91%、30歳代が30.48%であった。さらに、本学に開設された期日前投票所(平成29年11月の広島県知事選挙から)の利用者は、県知事選160人、参議院選では69人に過ぎなかった。
  このように、若年層全体としては、投票率はいずれの選挙でも他の年代と比べて、低い水準にとどまり、総務省では、特に若年層への選挙啓発や主権者教育に取り組むとしている。
  本年(令和2年)は、福山市では4月に市議会議員9月には市長が、それぞれ任期が到来し改選となる。4月の市議選では、これまでの40議席が38議席となる。また、有力議員の引退の噂や複数の新人の立候補が取りざたされている。近隣でも笠岡市や倉敷市などで首長の改選期である。
  したがって本年は、本学の多くの学生が地方自治に関する投票権を行使することが可能な年である。一部マスコミにおいては国政選挙の可能性さえ囁かれている。先の投票年齢の引き下げに伴い、住所要件などの制約はあるものの本学の学生のほとんどが投票可能な筈だ。
  日本の人口は、ピラミッド型から釣り鐘型を経て、現在では壺型となっている。その形は、40歳代を境に減少幅が大きいため、重心が高く安定性を欠く壺となってしまった。若年世代の投票率の低さは、若年世代に対する政策・施策が乏しいことが一つの原因とされる。果たして、国・地方を通じて将来を見通した行財政運営を模索している今日であっても、“国”も“地方”も『有権者が少なく投票率も低い世代』に対する政策・施策を実施する”余裕が持てる“のだろうか。 国や地方の資産や負債を引き継ぐとともに、最も長期にわたって制度の恩恵や制約を受けるのは、いつの時代も若者である筈なのに。
  壺が転ばぬことを祈るのみである。