経済学部

Faculty of Economics

2023年度(後期卒業)卒業論文:経済学部長賞対象論文(6編)

経済学部では、2022年度(後期)の卒業論文から、論文完成度、作成努力度、教員指導度といった観点から評価付けを行い、特に優秀なものと経済学部長が認めた卒業論文に「経済学部長賞」を授与しています(2022年度の対象論文はこちら)。2023年度の対象論文は以下の6編です。

〈経済学科〉

①岩田紘輔(田中ゼミ 広島県立福山明王台高等学校出身)『選挙における世襲・派閥の有利性』

評価点:派閥に所属している、世襲である候補者は、選挙で有利であるという仮説の基に、当選回数・対抗馬所属政党・対抗馬当選回数・派閥所属の有無・世襲の有無の要因を用いて、当選の勝敗と得票率の増減に与える影響について分析した論文。特に足元で、政治資金問題に端を発した派閥の解散や変革の動きがある中での本テーマ設定は慧眼である。相関分析、回帰分析といった定量的分析を駆使し、世襲議員は小選挙区での得票率に優位性を持ち、一方で、派閥所属は比例復活に有利に働くことが主要な結果として示されている。

課題:本論文によれば、中国・四国9県での世襲議員割合が72%、派閥所属議員割合が86%で、特に本地域の世襲議員割合が他のどの地域より飛び抜けて多い。全国の分析を一歩進めて皆さんの足元の地域について焦点を当てて分析して欲しい。

②大下剛生(助田ゼミ 広島県・呉港高等学校出身)『欧州五大リーグとサウジアラビアリーグ―大量のスター選手を集めたことで欧州五大リーグのような人気あるリーグへと成長していくのか―』

評価点:サッカーのサウジアラビアリーグという近年になって巨額の資金で大型移籍が行われている等、急速に注目を集めているリーグに注目し、クラブ別、年別にデータをまとめ、W 杯イヤーとそれ以外の年、ビッグ4とその他のクラブといった比較が綺麗に行われている。観客数データもまとまっていない状況の中での大変な労作である。欧州五大リーグとサウジアラビアリーグの相違点に関し、著者はW 杯のある年とそれ以外の年で観客動員数が大きく違うことからシーズン開幕直後は40℃ 、シーズン終わりにも30℃ を超えてくる過酷な暑さにその原因を見出している。

課題:欧州五大リーグの観客数が多いのは事実だが、これらの熱心なサポーターの属性はどうなっているのかに関し、もう少し深堀りしてみて下さい。仮に所得レベルとしてそれほど高くないといったことであれば、いくら大好きなサッカーであっても、時間経費が掛かりすぎるためサポーターは動けないとも考えられます。また、地域属性だと思いますが、ここ広島でも、カープが勝てば多くのサポーターが動きますが、サンフレッチェ広島が勝っても相対的には僅かなサポーターしか動きません。

③森拓人(楠田ゼミ 広島県・銀河学院高等学校出身)『企業はSDGs に取り組むべきかどうか』

評価点:SDGs について、わが国に限らず世界的に共通する概念として浸透している。しかし、企業が何故SDGs に取り組むのかという素朴な疑問点に著者は注目し、SDGs に取り組むことのメリット、ディメリットを包括的に検討している。この上で、本論文の圧巻は、実証研究として積水化学工業(株)を対象に17 年間の有価証券報告書の投資、売上、利益データを対象に回帰分析して同社がSDGs に取り組んだことを経営的観点から統計的に分析しており、同社におけるSDGs 部門の収益自体は大きくないものの持続性のある環境関連事業として同社の事業活動の一翼を担っていることを示しており、大いに評価できる。

課題:今回の実証研究では、積水化学工業(株)を対象とした分析を行ったが、例えば英国のような海外の企業の有価証券報告書も、今では簡単に翻訳して入手できます。SDGs 先進国フィンランドの企業を対象に分析し、比較検討すると、本論文とはまた異なった評価となるかもしれません。

④八谷麻衣(高羅ゼミ 広島県立大門高等学校出身)『福山市の不登校児童生徒支援―多様な教育機会の実現に向けて―』

評価点:2021 年度の福山市の不登校児童生徒数は893 人に上り、過去10 年で最多だった。本論文執筆過程で、情報非開示、フリースクールへの対面取材お断り、市担当者と連絡がとりづらい等制約と困難に直面しながらも、柔軟に方向性や構成を修正し、何度も取材を繰り返し、福山市の不登校児童生徒を取り巻く現状と課題、取り組みについて考察し、改善点を見いだしている。73 頁、46,632 字にも及ぶ大論文で、本テーマに対する著者の並々ならぬ意欲と投入エネルギーを感じさせる。

課題:本論文でも紹介している大阪市立大空小学校の先進的な取り組みは、教育の制度設計を学校側が準備してそれに適合する生徒を受け入れるのではなく、生徒側が自由に選択し、生徒にとっての担任教員は全員とするというシステムとして注目を浴びています。やがて本学のゼミ制度自体も学生にとってこのように選択自由度の高いものとすべきかどうか是非検討して下さい。

〈国際経済学科〉
汪雨(呉ゼミ)『中国とインドの環境問題について―環境クズネッツ仮説に基づく実証分析―』

評価点:3 年生向けの「環境経済学」の授業で、環境クズネッツ仮説の話を行い、SOxに関してはこの仮説が成り立っていると言われているが、CO2 では良く分からないといった説明を行いました。著者はCO2 を対象にこの仮説もとに中印の経済発展と環境問題の関連性を時系列分析している。導かれた結論として環境保護政策の手遅れや監督・管理資金の不足時に曲線は上方向きとなり,曲線が下方に変動した時期に新環境政策が台頭したり,環境汚染の制御があったことを挙げており、大変意欲的な力作であると思いました。

課題:「環境経済学」の授業では日本のSOxに関しこの仮説が成り立っているといった説明を行いました。SOxも自然由来と人工由来があるので、本来は人工由来SOxと経済成長の関係を探るべきです。しかし現実には日本の場合、人工由来のSOxより1955年以来の鹿児島県桜島、2000 年以来の東京都三宅島雄山から自然由来のSOx排出量が多くその規模は世界規模で見ても極めて大きいのが現実です。中国で「空中鬼」、「空中死神」と呼ばれる酸性雨の原因物質SOxについても研究して下さい。

〈税務会計学科〉
佐伯駿(堀田ゼミ 岡山県・岡山龍谷高等学校出身)『進路選択自己効力感の高まりは、キャリア探索につながるのか-大学生のインターンシップ参加前後の変化に着目して-』

評価点:筆者は、自己効力感に対する強い興味関心を持ち、大学生のキャリア教育の一環であるインターシップの参加による自己効力感の変化とその後の行動化の関係を検証することとなった。そして、仮説検証の結果を考察した上で、インターシップ参加者を2タイプに分類して支援するという、独自のキャリア支援方法を提案した。問題に対する定量分析結果に基づく解決方法の提案を試みた点は大いに評価できる。

課題:今回の分析対象学生数が38 名に留まったことは、100~200 名レベルを対象とすることで精度が上がる統計分析の視点からは課題が残った。しかしながら、本学のインターンシップ参加者を対象とした2回(事前事後)のアンケート調査を実施し、得られた量的データを活用するアプローチは統計的分析として王道であるといえる。今後は、他大学での調査データを用いた追試や、自己効力感と行動化の関係に影響する要因の特定など、さらなる理論の精緻化を期待する。

この記事をシェアする

トップへ戻る