経済学部

Faculty of Economics

2024年度(後期卒業)卒業論文:経済学部長賞大賞論文(6編)

経済学部では、2022年度(後期)の卒業論文から、論文完成度、作成努力度、教員指導度といった観点から評価付けを行い、特に優秀なものと経済学部長が認めた卒業論文に「経済学部長賞」を授与しています(2023年度の対象論文はこちら)。2024年度の対象論文は以下の6編です。

<経済学科>
①池田琉星(高羅ゼミ 山口県桜ケ丘高等学校出身)『ベストプラクティス企業の事例研究―男性の育児休暇を当たり前にー』
評価点:先ずは本論文の54,982文字という文字数の多さには圧倒される。湯崎広島県知事が、2010年に知事として全国で初めて育児のための休暇を取得し、併せて広島県として「男性育児休業等促進宣言企業登録制度」を開始したこともあり、広島県の男性育児休業取得率は46.2%と全国の育休取得率30.1%のおよそ1.5倍である。本論文では男性育児休業等促進宣言ベストプラクティス企業から14社のアンケート回答協力を得、制度導入の背景、導入後の変化、課題、展望について取り纏めている。これらの企業の中には、トップの社長が育休取得を推奨し、子育てを通して視野を広げ仕事に活かしてほしいという応援メッセージを発信し、専務取締役自らが相談窓口となり、上司を交えた面談で後押しし、社内での共有を早い段階で行った事例等々個社事例といえどもなるほどと頷くことのできるものも紹介され、大変な労作である。
課題:14社の個別事例を分類し、体系化しという集約作業を行う上で、例えばもっと図表を上手く利活用して読者に分かりやすい形にして、情報発信して下さい。

②小林慎弥(野田ゼミ 広島県・盈進高等学校出身)『サッカーのゴールキーパーに求められる能力と評価に関する研究』
評価点:サッカー競技に於いてゴールキーパーに求められる資質に関し、シュートストップ以外のコーチング・指示、ビルドアップ(プレーの組立て)等5項目に関して79のアンケートデータを利用してKH Corderによる計量分析を行い検討したものである。福山大学のサッカー部に入部する学生も、かつては小柄な選手が多いとの印象があったが、最近は身長が高く体格の良い学生が多いという変化の兆しが見受けられる。外見的な変化は素人でも気付くが、ゴールキーパーに求められる資質の本質が内面も含め体系的に分析されており、本論文は興味が尽きない。
課題:引用・参考文献が国内文献に限られている。サッカーは世界的なスポーツなので、海外文献も多くあると思う。検索範囲を拡げて頂きたい。また、5つの項目について数値化できる項目は客観的な判断が容易だが、コーチング・指示のような数値化できない項目の具体的評価方法を引き続き検討して頂きたい。

③高橋詩音(田中ゼミ 広島県・如水館高等学校出身)『総合型地域スポーツクラブがスポーツ実施率に及ぼす影響』
評価点:近年、低下傾向にある成人スポーツ実施率に関し、兵庫県を除く46都道府県の8項目のデータを利活用、相関分析と回帰分析を駆使して分析を実施している。総合型地域スポーツクラブ数、プロスポーツクラブ数、直接スポーツ観戦率という3つの主要な要因で説明している。プロスポーツクラブ数が一つ増加すれば成人スポーツ実施率が約1%増加、また、野球の実施率に影響を及ぼすのは総合型地域スポーツクラブ数、バスケットボール、サッカーの実施率に影響を及ぼすのは直接スポーツ観戦率であるといった興味深い結果を示している。たまたま2024年11月に公表された明治安田総合研究所による「地元愛に関するアンケート調査」でも、広島県は野球、サッカー、バスケットボールの三種目ともスポーツ人気度が他の都道府県を凌駕する極めて高いポジションとなっている。総合型地域スポーツクラブ数、プロスポーツクラブ数、直接スポーツ観戦率が大きくなることで広島県における成人スポーツ実施率がさらに高くなって欲しいものである。
課題:著者も述べているがアフターコロナ時代になり、学校における部活動の廃止、水泳、ハンドボール等の中学校での低い部活動設置率競技の全国大会とりやめ等の動きは、わが国国民の成人スポーツ実施率低下傾向に拍車を掛けることに繋がることが懸念される。本論文で得られた知見を利活用してスポーツ庁が目標とする成人スポーツ実施率週一回70%を達成するための諸提言を発信し続けて頂きたい。

④近森一樹(楠田ゼミ 広島県立日彰館高等学校出身)『排出ガス規制で生産終了したバイクの価格形成要因の研究』
評価点:わが国おけるバイクの排ガス規制強化により生産停止となった250ccクラスの中古バイク価格が、排ガス規制をクリアした新車バイク価格より高い金額で取引されている価格形成要因に関し、中古バイク販売サイトから得た170のデータを階層的重回帰分析することでエンジン種と経過年数という変数で上手く説明している。別タイプのバイクを対象とした先行研究との比較分析まで行っており、筆者の論文執筆に対する徹底ぶりを感じさせる。奇しくも2025年11月からの排ガス規制導入でヤマハ、スズキといった主要メーカーが原付50ccバイクを製造中止するという報道も流れ、実にタイムリーな論文と言える。
課題:中古車販売サイトから得たデータでの分析を行っているが、データは中古販売者提示価格であり、実際の買い手購入価格で分析を行っているわけではない。本来はオークションの落札価格といった、買い手が購入した価格の情報を公開しているサイトを見つけた上での分析を行うことが望ましい。

<国際経済学科>
Wang Bowen(高山ゼミ 留学生:福山国際外語学院出身)『大学生は金融投資すべきか ―大学生の金融リテラシーの向上を目指して―』
評価点:アメリカの大学生の金融リテラシーに関する正答率は日本の大学生のそれと比較して10%以上高いという。著者は金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査」による複数年の統計を丁寧に利活用して学生の金融知識と判断力に関する特徴を説明、日本の大学生における金融知識の課題を明らかにしている。金融教育が大学教育の場で一定の効果を持つことは確認されているが、金融関係の科目を履修するだけでは、金融知識の向上には限定的とのことである。知識不足や資金不足が主な障壁となり、実際に投資行動に移すことが少ない。そこで、投資への不安感を払拭し、金融リテラシーを向上させるためには、金融教育と投資実践をしっかりと行う必要があるとの結論には頷ける。
課題:多くの参考文献等を参考に先行研究を考察しているが、国内文献に留まっており、米国との比較も出来るのであるから米国等の海外文献も探して参考として欲しかった。著者が結論として推薦する投資クラブやグループの設立、トレーディングシミュレーションの活用、ファイナンシャルプランナー資格取得に向けての方策をより具体策を明示して欲しい。

<税務会計学科>
渡部萌菜(飯田ゼミ 広島県・盈進高等学校出身)『「インボイス制度導入」が導出する課題―消費税に内在している諸課題を踏まえてー』
評価点:租税滞納額の55%とされる消費税、その滞納原因として、仕入税額控除制度、事業者免税点制度、簡易課税制度等が原因として本論文では明らかにされている。こうした課題解決のため、2023年10月からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入された。著者は、インボイス制度導入の「現状」について、先行研究の渉猟、アンケート結果、裁判判例等を参考にしながら、本制度導入により、本来的には免税の事業者が課税事業者に変更することを余儀なくされている等課題が多いことを明らかにした。また、韓国における付加価値税にかかわる電子インボイスとの比較検討を試みることで、立体的な視座で本制度導入の課題を明らかにしている。
課題:本論文とは異なるアプローチではあるが、キャシュレス決済比率が94%の韓国と比較するまでもなく日本の比率は33%と世界的に見ても極めて低い。この理由を研究する論文の中に、電子決済に対する各種の抵抗感について、日本の現金・現物をより信用する歴史的な国民性や増加の一途を辿る高齢層によるインターネット技術への不適合等を指摘している。インボイス制度の円滑な導入を担うべき企業の中で、数多くの高齢層を主たる従業員とする中小零細企業で本制度導入に対する多くの課題を抱えることとも重複する。この点を踏まえ、わが国社会の抱えるこれらの問題の本質を引き続き究明していくことを希望する。

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