【人間文化学科】井伏鱒二宛未公開書簡に関するシンポジウムの報告
人間文化学科の青木美保教授から「井伏鱒二宛未公開書簡に関するシンポジウム」の報告記事が届きましたので、紹介します。(投稿者:大学教育センター 前田)
シンポジウム「井伏鱒二宛未公開書簡の基礎的研究 −「同学コミュニティ」解明に向けて」と関連行事について報告
Ⅰ 研究のこれまでの経緯
2016年に発表した井伏鱒二未公開書簡(高田類三宛)約170通についての研究は、科学研究費基盤研究C(2017年度~2019年度)に採択され、福山大学井伏鱒二科研費研究チームで研究を続けてきました。その2年目には、それまでの研究成果を研究チームによるシンポジウムで発表する計画が織り込まれていました。それによって、地域へのさらなる研究情報の提供を求めることにしていたのです。
そのシンポジウムが、去る11月24日(土)・25日(日)に学校法人福山大学宮地茂記念館9Fホールで開催され、これと並行する関連事業として、書簡展示と絵画展を同時開催しました。
1.展示「井伏鱒二と仲間たち」(主催:福山大学井伏鱒二科研費研究チーム、場所:学校法人福山大学宮地茂記念館8F804研修室、期間:11月23日(金)~25日(日))
2.絵画展「井伏鱒二と同時代の画家展」(主催:井伏鱒二と同時代の画家展実行委員会、場所:エフピコRIM7F市民ギャラリーA、期間:11月21日(水)~29日(木)、※一般財団法人義倉、同ツネイシ未来財団の助成事業)
Ⅱ シンポジウムの主旨
井伏鱒二未公開書簡(高田類三宛)の資料としての面白さの第一は、井伏が作家になる前の福山中学時代に早稲田大学時代の動向がわかることです。その研究テーマを、私たちは「同学コミュニティ」という言葉で表しました。それは、同じ学校の仲間の交流という意味ですが、作家が作家になるまでに同じ学校の仲間同士の活動が重要な働きをしているということに着目したわけです。それは、新しい文化の創造において「同学コミュニティ」の文化活動が重要であることを示すもので、私たち教育に携わる人間としては興味深い内容を含んでいます。それは、次の6点から見ることができました。
1.福山中学寄宿舎での井伏の生活と伝記的な事実の発見(兵庫教育大学大学院教授:前田貞昭、井伏鱒二研究)
2.福山中学時代の同級生の絵画を描く自主サークルの活動(福山大学教授:青木美保、地域文化・作品研究)
3.中学卒業後の井伏鱒二と高田類三の絵画・文学の創作活動(青木美保、同上)
4.書簡に見られる文字文化の習得の特徴(兵庫教育大学大学院教授:田中雅和、国語史)
5.1910年代の東京を中心とする美術と文学の相互交流の状況(大川美術館館長:田中淳、日本美術史研究)
6.1910年代~1920年代の文学史における井伏文学の位置づけ(国士舘大学准教授:平 浩一、昭和文学史研究)
今回、研究チームのメンバー全員が一堂に会して、それぞれの観点から成果を発表したことで研究の全体像が明確になりました。それらの研究成果は、それぞれ別々の研究誌に発表する予定です。
Ⅲ 行事への反応
1.シンポジウムについて
東京の和泉書院のTwitter(11月1日(木))で紹介された他、『日本古書通信』で取り上げられました。お知らせ記事は、絵画展とともに朝日新聞、中国新聞、山陽新聞に掲載されました。来場者は24日が60人余、25日が70人余で多いとは言えませんが、東京、岡山、広島市から研究者の参加がありました。展示及びシンポジウム当日については、中国新聞や山陽新聞で報道されました。
当日参加の方の感想は「高田宛書簡の公開による「研究の評価」が理解できた。今後の研究に期待しています。」とありました。
2.絵画展について
絵画展については前述のような報道があり、9日間で400人を超える来場者があり、大変反響があったようです。
Ⅳ 3つの行事(シンポ、書簡展示、絵画展)協力者へのお礼
シンポジウムの運営については、非常勤講師の谷川充美氏と本学在学生の有志がスタッフとして協力してくれました。谷川氏からは、学生が大変積極的に行動してくれて助けられたとの言葉を聞き、また、来場者からは学生さんが立派で感心したという感想をいただいています。
また、今回は、文学と絵画ということが重要なテーマになっていましたので、文学作品だけではなく、井伏鱒二の絵画と同世代の福山出身の画家の作品を同時に見られる絵画展が是非必要だと思っていましたが、絵画の所蔵者である井伏家の協力と地域の絵画コレクターである吉田徹氏の協力によって実現することができました。経費については、一般財団法人義倉と同ツネイシ未来財団の助成を得て実施しました。また、絵画展の運営については、ふくやま賢治を読む会、井伏鱒二文学研究会有志の皆さん及び市民の方々、本学在学生、卒業生の協力によって実施することができました。
書簡の展示については、高田家の全面的協力によって高田類三にまつわる新資料をお借りし、展示することができました。また、展示作業については、学芸員の経験を持つ人間文化学科の柳川真由美講師の全面的な指導と協力によって貴重な資料を展示の原則に則った適切な方法によって展示することができました。さらに、展示室の警備は、警備員の資格を持つ卒業生が担当しました。
絵画展・書簡展示の展示器具設置についても、菊池英史氏の技術協力を得ました。
以上、本研究をご支援くださった方々及びその他学内の協力者の方々に心から御礼申し上げます。
Ⅴ 研究の今後
今回のシンポジウムの成果を踏まえて、2019年度は研究成果の全体像を報告書にまとめることになっています。その後は、これに続く研究計画を立てて実行する準備を進めています。
基調講演・田中淳先生
パネルディスカッションの様子
井伏鱒二未公開書簡等の展示(宮地茂記念館8F)
井伏鱒二と同時代の画家展ギャラリートーク(エフピコRIM7F)
学長から一言:井伏鱒二宛未公開書簡という第一級の史料を得て、素晴らしいシンポジウムになりましたねッ!関係者の皆様、学生の皆さん、ご協力に感謝!!!今後の研究の進展にも、大いに期待しています!