【心理学科】お化け屋敷での卒業研究結果を広島県立歴史博物館で報告!
昨年、広島県立歴史博物館と心理学科の協働で開催された草戸千軒お化け屋敷では、実は心理学科4年生の卒業研究が同時に進められていました。2023年3月3日(金)に、広島県立歴史博物館(ふくやま草戸千軒ミュージアム)においてその研究成果の報告を行ってきましたので、本日はその様子について、草戸千軒お化け屋敷の担当教員かつ卒業研究の指導教員である大杉(心理学科の学長室ブログメンバー)がお届けします。
2021年度から夏の恒例行事となっている博学連携による草戸千軒お化け屋敷。毎年多くの小学生や保護者の方にご参加いただき、「怖いけど楽しい!」と好評をいただいております。
さて、この「怖いけど楽しい!」という一見矛盾した感情は何なのか、皆さんは考えたことがありますか?心理学では、これを「娯楽的恐怖(Recreational Fear)」と呼び、主に海外でいくつかの研究が報告されています。
先日の卒業式まで捜査心理学研究室に所属していた藤本一真さん(広島県立沼南高等学校出身)は、昨年度からお化け屋敷企画にも参加し、この娯楽的恐怖というテーマにも関心を持っていました。せっかく博学連携で開催する草戸千軒お化け屋敷ですから、日本のお化け屋敷でもこの娯楽的恐怖について学術的な検討をしてみよう!ということで、「日本のお化け屋敷における娯楽的恐怖のフィールド実験」と題した卒業研究として取り組むことになりました。
下の写真のような腕時計型の心拍測定装置を用いてお化け屋敷体験前後及び体験中の心拍を測定し、お化け屋敷体験時の主観的な恐怖と主観的な楽しさの評価とどのように関連するかを検討することを目的とした実験です。
<腕時計型心拍測定装置(Polar UNITE, Polar, Finland)>
お化け屋敷の準備と並行して実験の準備をすることは、並大抵の努力ではできません。効率よくお化け屋敷企画を遂行するためにその段取りの工夫が大きなポイントでしたし、小学生を主な対象とする以上わかりやすい適切な説明が必要不可欠でした。博物館の学芸員の皆様からアドバイスをいただいたり、学生同士で手順を確認したりしながら、練習に練習を重ねて当日を迎えました。
本番前の準備の様子は、広島ホームテレビの方に取材していただき、2022年7月18日(月)の夕方に少しだけテレビ番組で紹介していただきました。また、緊張しながら行った最終確認の様子は、こちらの学長室ブログ記事でお伝えしています。
藤本さんは、最初のころは緊張の面持ちで少々たどたどしい説明でしたが、回を重ねるごとにうまくなり、自信を持って実験を行うことができるようになっていきました。
<参加希望者を募集している様子。白いシャツが藤本さん。黄緑色のシャツは、実験協力者である犯罪心理学研究室の橋本龍一さん(山口県鴻城高等学校出身)です。>
<参加者の一人一人に実験の説明する様子。1グループずつ、しっかりと丁寧に伝えました。>
2022年7月後半と8月の土曜、合計5日間で60名の方にご参加いただきました。この実験と合わせて行っていた調査に参加してくださった方も含めると、合計で234名もの方にご協力いただきました。この場をお借りし、改めて御礼申し上げます。
実験終了後はデータ入力とデータ分析と向かい合った藤本さん。2022年12月15日(木)に無事卒業論文を提出し、2023年1月26日(木)に卒業研究発表会での発表を終えました。そして、先日の2023年3月3日(金)には、実験の結果得られた成果を広島県立歴史博物館の館長はじめ学芸員の皆様に報告すべく、卒業研究報告会を開催させていただきました。
<藤本さんと指導教員大杉の挨拶の様子。佐藤館長、石橋学芸課長をはじめ、お世話になった学芸員の皆様が参加してくださいました。><藤本さんは、学内の発表会より緊張したそうです。>
詳細な結果は、またの機会に詳細にお伝えできればと思いますが、この卒業研究で主に得られた成果は以下の通りです。
- 子どもも大人も、日本のお化け屋敷を体験すると心拍は上昇した。
- 大人は怖ければ怖いほど楽しいと感じる一方で、子どもは怖いほど楽しくないと評価した(大人には主観的恐怖と主観的楽しさの評価に正の相関がみられ、子どもには逆に負の相関がみられた)。
- 心拍と主観的評価の関連は一部の箇所においてのみみられた。
- 犯罪心理学に基づく草戸千軒お化け屋敷を体験すると、子どもの危機回避能力(防犯意識)が向上する傾向が示された。
ここで、実験を行った藤本さんの感想をご紹介します。
今回お化け屋敷でのフィールド実験を行うにあたり、周りにこのような経験をしたことのある人や先行研究自体も少なかったため、最初はとても不安でした。しかし、大杉先生をはじめ、心理学科の先生方、博物館の方々、学生スタッフの皆さんにサポートしていただき、実験を行うことができました。
普通の大学における実験とは違い、たくさんの人が関わっていたため、自分の失敗が周りに大きな影響を及ぼすことになるため、細心の注意を払いながら実験を進める必要がありました。周りの人に実験説明と参加のお願いの仕方をチェックしてもらい、何度も改善を行いました。その中で、自分が今まで気づかなかった点を指摘してもらったことで、参加していた小学生にも分かりやすい実験説明ができたと思います。周りの人たちのサポートがなければ、実験は出来ていなかったと思います。
今回の実験は、お化け屋敷に関わる皆がチームとして動かねば成功させることはできませんでした。チームの一員として、情報伝達の徹底や、様々な意見を取り入れながら協力していくことが何より重要であると実感しました。これは、社会に出て会社というチームで仕事を行なっていく中でも必要不可欠なことだと思っています。この経験で学んだことを活かして、4月から社会人として頑張って行きたいです。
藤本さんは4月から一般企業に入社し、社会人として新たな一歩を踏み出します。卒業研究やお化け屋敷における学生スタッフの体験も含め、心理学科での学びが今後の糧になってくれることを心から祈っています。
また改めて、実験及び調査にご参加くださった皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。実験結果の詳細につきましては、また後日、広島県立歴史博物館(ふくやま草戸千軒ミュージアム)の館内等で掲示させていただくことになると思います。またお知らせしますので、今しばらくお待ちいただけましたら幸いです。
最後になりましたが、草戸千軒お化け屋敷、そして心理学実験の実施に際して、温かいご理解と多大なるサポートをしてくださった広島県立歴史博物館の皆様に心より感謝申し上げます。
今年度も残すところあと少し。来年度のお化け屋敷も、皆様ぜひご期待ください!
学長から一言:「草戸千軒お化け屋敷」は、広島県立歴史博物館と本学心理学科とのコラボ企画ですが、それを本格的な心理分析の対象にして卒論を纏め上げた藤本一真さん、よく頑張りました。もともと犯罪心理学の知見を随所に活かした企画でしたが、体験した子ども達の危険回避能力(防犯意識)の向上に繋がるという結論。催し本番のみならず、その研究発表にまでご協力賜った歴博の館長様をはじめ皆様には、ただただ感謝するばかりです。