【海洋生物科学科】因島から新種の海藻を発表!
今回は、地元因島からみつかった「新種の海藻」について紹介します!担当は、新しく学長室ブログメンバーに加わった海洋生物科学科の山岸です。よろしくお願いします。
因島に生育する多様な海藻の調査
私こと山岸は、海洋植物科学研究室の学生たちと一緒に、因島の八重子島(やえこじま)という場所で、2005年度から継続的に海岸に生育する海藻の種類を調査しています。海藻の繁茂する場所は「藻場(もば)」と呼ばれ、魚類や甲殻類などの生活場として大切な役割を持っており、藻場を保全するためにも、その状況を調査して把握することが必要です。
ところで、皆さんは何種類くらいの海藻をご存じでしょうか?
ワカメ、コンブ、ヒジキ、モズク…など食べる海藻はいくつかあげられると思います。実際の海岸には、おそらく皆さんが想像するよりもたくさんの種類の海藻が生育しており、これまでに因島からみつかった海藻は約250種になります。ちなみに、日本全体では1,500種を超える海藻の生育が知られています。
さて、海岸で海藻を調査するとたくさんの種類が見つかるわけですが、時々、これまで報告された種類にどうも特徴が一致しない、よくわからない種類が見つかることがあります。そのうちの1つが、今回新種発表した「ケブカダジア」という海藻です。
因島に生育するケブカダジア
上の写真が因島の海岸に生えているケブカダジアです。細長いよく枝分かれした体には、柔らかい赤い「毛」がびっしり生えていて、これが「ケブカ(毛深)ダジア」の名前の由来になっています。2007年頃から見つかり、毎年春から初夏にかけて生育します。手で持ってみると、なんとなくモズクのような柔らかい質感があります。
ケブカダジアは、紅藻イギス目のダジア属という仲間に分類されます。これまで、日本では8種ほどのダジアが報告されており、他の種は体が15㎝以下であるのに対して、ケブカダジアは30~60㎝と大型で、体全体に長い毛が密生することが特徴とされています。
因島で見つかった海藻もケブカダジアであるとして、当初は特に気にしていなかったのですが、よく調べてみるとその学名に問題があることがわかってきました。次に、新種発表に至った過程を紹介します。
日本のケブカダジアの学名は間違っていた!
ケブカダジアが日本で最初に報告されたのは1916年 (Yendo 1916)で、オーストラリア(タスマニア)から報告されていた「ダジア・ビローサ(Dasya villosa)」という種と同じ種であるとされ、それ以降日本のケブカダジアの学名にはダジア・ビローサが使われてきました。
しかし、本来ダジア属の種を区別するためには、内部構造の特徴や成熟した体にできる生殖器官の特徴を詳しく調べる必要があるのですが、日本のケブカダジアではこれまで詳しい特徴は調べられておらず、本当にダジア・ビローサと同じ種なのかがわからない状態でした。そこで、今回私は北海道大学の研究者と協力して、因島の重井町や八重子島から採集した標本および北海道大学理学部植物標本庫(SAP)に収蔵されている過去の標本を材料として、日本のケブカダジアの形態観察とDNA塩基配列による系統解析を行いました。
その結果、日本のケブカダジアの持つ形態の特徴(上図のように、四分胞子嚢が4個ずつできること、カバーセルと呼ばれる細胞が1個ずつできることなど)が、オーストラリアのダジア・ビローサの特徴(四分胞子嚢が6個ずつできること、カバーセルが3個、時には4個ずつできることなど)とは異なっていることを明らかにし、ケブカダジアはダジア・ビローサとは別の種であると結論しました。
新種として新しい学名を命名
次に、日本のケブカダジアの「学名」はダジア・ビローサでないならば、一体何になるのか?という問題を解決する必要があります。調べていくと、ケブカダジアに最も形態の特徴が類似している種は2種に絞られ、その2種を含む約20種のダジアとケブカダジアのDNA塩基配列を比較した結果、日本のケブカダジアはいずれの種とも異なっていることがわかりました。
これらの研究結果から、日本のケブカダジアは新種であると結論し、新しくダジア・ジャポノビローサ(Dasya japonovillosa)という学名をつけて、日本藻類学会英文誌のPhycological Researchに論文発表しました(1月10日付オンライン版に掲載)。
新種発表の際は、基準となる「タイプ標本」を設定することになっており、今回は因島の重井町から2009年6月10日に採集したうちの1つの標本をタイプ標本としました。
今回のように、私たちの身近な海岸にも未知の種が存在しており、瀬戸内海は多様な生物が生きづく面白いフィールドです。これからも、学生たちと一緒に海藻の不思議を探る研究に取り組んでいきたいと思います!
学長から一言:新種の海藻発見、おめでとうございます。瀬戸内の海岸で、それこそ目を皿のようにして珍しい海藻を探している姿を想像しました。ずいぶんと根気の要る作業なのでしょう。さらに、既知の種類との比較による形態観察や最新機器を使ったDNA塩基配列の系統的解析など、研究が、そして海藻が好きで好きでたまらなければ出来ないことでしょう。地道な努力がこれからも次々と新種発見につながりますように!