【生物工学科】アザラシ・アシカ・セイウチの進化に新知見!

【生物工学科】アザラシ・アシカ・セイウチの進化に新知見!

アザラシ、アシカ、セイウチ、これらはまとめて鰭脚類(ききゃくるい)と呼ばれています。動物の進化の中で、哺乳類は陸上動物の祖先を持ちますが、その進化の過程で肉を食べる哺乳類のグループである食肉目Carnivoraの中から、再び海へと生活の場を移した哺乳類の1グループが鰭脚類です。

今回、鰭脚類の味覚に関わる遺伝子を分析したところ、アザラシとアシカ・セイウチは、独立に海に進出したのではないかということを示唆する結果が得られました。その論文が、生物地理学の専門誌であるJournal of Biogeography誌に受理され、公開されております。プレスリリースはこちら

Wolsan M, Sato JJ (2019) Parallel loss of sweet and umami taste receptor function from phocids and otarioids suggests multiple colonizations of the marine realm by pinnipeds. Journal of Biogeography https://doi.org/10.1111/jbi.13749

このブログでは、著者の一人である生物工学科佐藤からその成果の内容を簡単に説明をさせていただきます。ポーランド科学アカデミーの古生物学者(化石の研究者)であるMieczyslaw Wolsan教授との国際共同研究です。

これまでの研究

「アザラシはイタチに近くて、アシカはクマに近い」、DNAの分析が可能となる時代のずっと以前には、このようにアザラシとアシカが異なる陸生哺乳類から独立に進化したとする仮説がありました。しかしながら、今から15年ほど前にDNAを使った研究により、アザラシ、アシカ、セイウチは1つのグループを形成し(難しい言葉で言うと単系統)、そのグループはイタチに近いということが明らかにされました(Flynn et al. 2005; Sato et al. 2006)。その時点で、多くの方が鰭脚類が海に進出したのは1回であると思われたことでしょう。

一方で、2012年に私たちは鰭脚類の旨味に関する味覚遺伝子を調べたところ(Sato and Wolsan 2012)、味覚の機能を失わせるような突然変異が起きていることを見つけました(難しく言うと、フレームシフト型の突然変異とナンセンス突然変異と言います)。つまり、鰭脚類は味を感じていないのではないかということを示唆する結果でした。様々な理由が考えられましたが、鰭脚類が海での生活において、餌を噛まずに飲み込むことにより、舌で味を感じる必要性がなくなったことが大きな原因であると考えました。つまり、味を感じる必要がないので、味を感じる遺伝子が機能しなくなっても難なく生きていけたと思われるのです。

海への進出と味覚の喪失は関係する

この10年間に、鰭脚類の味覚遺伝子に加えて、クジラやイルカやペンギンのような海で餌を食べる生き物の味覚遺伝子の機能が失われていることが明らかとなってきました。つまり、味覚の喪失は海への進出を示唆することになります。

今回の私たちの研究では、アザラシ、アシカ、セイウチの16種について、旨味と甘味に関する味覚遺伝子のタンパク質コード領域全領域のDNA情報を決定しました。すると、予想通り、すべての鰭脚類の味覚遺伝子について機能を失わせる突然変異が起きていました。それらの突然変異のパターンを16種で比較してみると、興味深いことにアザラシのグループに共通の突然変異とアシカとセイウチのグループに共通の突然変異が見つかる一方で、全ての鰭脚類に共通の突然変異が見つからないのです。

想像力を高めて

ちょっと過去のことを考えてみましょう。もし、まだアザラシも、アシカも、セイウチもいない時代、それらの鰭脚類の祖先が一度だけ海に進出し、その後にアザラシ、アシカ、セイウチに進化していったとしましょう。その海に進出した共通祖先で味覚遺伝子の機能を失わせる突然変異が起きたとするならば、アザラシも、アシカも、セイウチも共通して持つ突然変異が見つかってもよいはずです。それが見つからないのです。その代わり、アザラシに共通の突然変異とアシカ・セイウチに共通の突然変異が見つかりました。ということは、アザラシはアザラシで海に進出し、アシカ・セイウチはアシカ・セイウチで海に進出したのではないでしょうか?

私たちは、北極において陸上生活をする鰭脚類の祖先が少なくとも2種以上存在し、それぞれ大西洋(アザラシ)と太平洋(アシカ、セイウチ)に進出したのではないかと考えています。化石の記録からもこの考えはサポートされます。これが私たちの結論です。

周囲の影響

本研究は科学界のみならず、一般的な興味も大きく、すでに毎日新聞(12/10火曜日Web版、12/11水曜日朝刊 24面 広島・備後面 下図)やYahoo!ニュースでも取り上げられており、世界及び全国から反響があります。

毎日新聞12/11水曜日朝刊 24面 広島備後面<記事掲載許可取得済>

以上、生物工学科では、陸であれ、海であれ、生き物を理解するための多様な研究を行っています(生態系を解明する研究微生物フェロモンの研究も今年進みました。)。興味を持ったら生物工学科へGO!

 

学長から一言:『鰭脚類』というむつかしい漢字を始めて見ました!お寿司のネタになりそうな。。。ではなくて、DNA情報から面白いことがわかるのですねッ!!!興味津々!!!

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