【図書館】シンポジウム:福山大学読書推進システム「注文の多い図書館」の検証実施報告!
福山大学読書推進システム「注文の多い図書館」検証と題し、11月30日(土)に学校法人福山大学宮地茂記念館でシンポジウムを開催しました。11月13日のブログは開催案内でしたが、終了しましたので、その様子を、学長室ブログメンバー、図書館運営委員会委員の竹盛が報告します。
当日は、広島県及び岡山県の図書館関係者を中心に、一般の読書グループ関係者など50名の参加があり、会場は満席となりました。また、大学が5校、高校が14校、中学校が1校、特別支援学校が1校、NPO法人が1団体から参加がありました。
このシンポジウムは、読書推進のためには本の読み方を身に着けることが必要だという考え方を確認するとともに、本の読み方の独習方法について検証することを目的としました。具体的には、附属図書館が作成した〈福山大学読書推進システム「注文の多い図書館」〉の実施報告と、その効果の検証を行いました。
この研究は、私立大学図書館協会の研究助成金(2018年度~2019年度)を受けて行っているもので、そのなかでこのシステムは生まれました。特徴としては、読書への誘いを目的とした自立した独習システムという点であり、本学では学内限定のオンラインのシステムとして動いています。パソコンの画面上で展開する質問メニューに沿って、「本の帯」と「書評」を作成し、提出もオンラインですることになります。
自立システムとは言うものの、初年次教育科目「日本語表現法」の授業において図書館司書が案内をするところまでは取り組みますので、全学の1年生には周知することとなり、さらには全学の学生が利用できるように、学生全員にアクセス権限を持たせています。
本学におけるこのようなシステムの運用に加え、地域の高等学校にも参加を依頼し、4つの高等学校の参加も得ています。ただし、この場合は、紙媒体で取り組んでもらっています。読書の習慣作りという観点から、高校・大学と続けてこのシステムを継続的に利用する流れを作るために、さらには高等学校の実情を踏まえた検証のためにも、高等学校の参加は重要であると考えています。「書評」コンテストも行っています。
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さて、「注文の多い図書館」の館長はあの紫色の猫なのですが、シンポジウムの第一部「読書推進活動「注文の多い図書館」の成立まで」では、まず附属図書館長の青木美保教授がシステムの成立経緯について説明しました。松岡正剛氏の読む行為についてのコンセプトを基盤としていること、その実践版が帝京大学MELIC(メディアライブラリーセンター)の実施する「読書術コース」であり、本学ではそれを2017年に視察に行き、2018年に本学独自のシステムを立ち上げて試行し、2019年度に完全実施となったというわけです。
次に、附属図書館職員の大谷司書が、学生用の実際の入力画面をプロジェクターに映して内容を説明し、図書館倶楽部の学生が実際にその場で試行を行いました。説明後、会場からこのシステムにおける質問項目の汎用性について質問がありました。これについては、1つの質問について、「小説など」の場合と「評論など」の場合との両方に対応できるように用語解説を付していると答えました。
第二部の基調講演では、帝京大学附属図書館学術情報グループリーダー中嶋 康氏が「「読書」で「学び」をデザインする―大学には読書力向上のためのプログラムが必要だ!」と題して、帝京大学附属図書館MELICにおける「共読」の活動実践についての話がありました。これは、すでに8年間の実績を持っているとのことでした。その中の「読書術コース」について詳細な説明をいただきました。これはアプリ化もされており(有料)、学生はそれを自分のスマホにダウンロードし、その中で読んだ本についてメニューに取り組み、それが授業評価の対象となることが説明されました。また、授業の際には、松岡正剛氏の編集学校卒業生がナビゲーターとして学生への直接指導に当たっていることなどが、帝京大学の大きな特徴です。これには毎年1,000人が受講し、読書に対するイメージが変わったと答える者が90%近くあるという報告でした。
第三部の「読書推進活動と高校・大学における取組」では、6人のパネリストが登場しました。まず、元岡山県立鴨方高等学校校長で、現在は倉敷商業高等学校国語科教諭の妹尾和弘先生です。2000年代に「朝読書」を中国地方で広められた先生で、「朝読書」の考え方と実践についての話をいただきました。先生が国語教師としてぶつかった壁は、「書く」だけではだめだということで、そこから本を「読む」活動が始まったという話でした。しかも「一人残らず読めるようにする」ということが大事であり、それによって生徒が変容し、職員室のコミュニケーションも変わっていったという話でした。本を読むと人が変わるという、貴重な実践の話でした。
次に、「注文の多い図書館」の実践報告に移りました。最初に、私が初年次教育の「日本語表現法」(1年次必修)での実施報告を行いました。図書館を中心とした「読む」領域と「書く」(アカデミックライティング)領域をどのように繋げるのかという基本思想に触れながら、「読む」「書く」における多様性(格差)に対応した改善の試みとその成果について報告しました。
次は、本システムの試行に参加した高等学校4校の先生が、それぞれの高等学校における「注文の多い図書館」について報告を行いました。初めに、図書館の取り組みとして実施した2高校、その後、教科国語の中で取り組んだ2高校という登壇の順番です。
広島県立油木高等学校の主幹図書教諭である山崎由美先生は、学校図書館として高校3年間の系統性と読書活動全体のバランスの中で、油木高校が独自にこれまで進めてきた「友達にすすめたい本」コンクールなどとの関係を調整しつつ、本学の「注文の多い図書館」に取り組んでいることが語られ、これがすなわち、よりよい表現への指導となっているといった成果についても報告がなされました。
盈進中学高等学校の常勤司書である高橋美貴先生は、国語科に依頼して国語の授業で実施したとの話でした。選書については、「手持ちの本」という指示がなされました。また、盈進中学校には読書科があり、高等学校でも朝読書が実施されていて、学年別の「朝読」の課題図書を選ぶ生徒が多かったとの報告がありました。さらに、メニューの妥当性については、賛否の反応があることも紹介されました。
次は、広島翔洋高等学校の国語科教諭(司書)である須崎智子先生でした。独自の選択授業科目「本の紹介」と、必修の国語科目とにおける丁寧な取り組みが紹介されました。取り組みの成果についても、授業からの視点と図書館からの視点との両面での考察がなされ、3年間を通した本を読む機会の創造という観点において、「注文の多い図書館」に対する一定の評価が認められるとの報告でした。
最後は、尾道中学校・高等学校の国語科教諭である嶋田真友子先生でした。選書は広く自由にさせたこと、メニューにおける用語についても授業の中で丁寧な説明をしたことなど、取り組みの状況について説明がありました。そして、このシステムが読書の契機となり、本の読み方のモデルになること、さらには文章力を問う有効な機会となることなど、取り組みの中から「注文の多い図書館」の成果と意義について報告がありました。
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このシンポジウムは、「大学図書館問題研究会広島地域グループ」「広島県高等学校教育研究会図書館部会福山地区支部」「広島県私学教育研修会図書館教育部会」の協賛、「広島県教育委員会」「福山市教育委員会」「尾道市教育委員会」「三原市教育委員会」「府中市教育委員会」「中国新聞備後本社」の後援を受けて実施することができました。冒頭で紹介しましたように、多方面から多くの参加をいただきました。県内だけではなく岡山県からの参加もあり、その広がりに喜んでいます。
今回のシンポジウムは、大きな成功を収めたといえるのではないでしょうか。シンポジウムの最後に本学の「注文の多い図書館」へのさらなる参加を呼びかけたところ、いくつかの学校などから意思表示が届いています。読書推進について、さらに多くの方の思いの結集が実現することを願っています。
学長から一言:「注文の多い図書館」の紫ネコ館長さんは、鋭い目つきの似合うなかなかの人物(猫物?!?)ですねッ!大変面白い、大変魅力的な、大変有意義な、大変広がりのある実践が行われたように思われます。。。今後のさらなる発展と深化を期待していま~す!!!