【社会連携センター】「明日への希望と未来創造人を育む教育・研究」

【社会連携センター】「明日への希望と未来創造人を育む教育・研究」

福山大学では、研究成果発表会を、全5学部14学科、大学院4研究科及び研究センター等の教員の研究成果を備後地域の企業及び地域に紹介することにより、産学官金民等によるシーズとニーズのマッチング交流や備後圏域の皆様に本学の教育・研究を具体的に理解していただくことを目的として開催しています。

2019年度福山大学研究成果発表会のテーマは「明日への希望と未来創造人を育む教育・研究」としました。

その模様を、学長室ブログメンバーで社会連携センターの中村が報告します。

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2019年度福山大学研究成果発表会は、6月26日(水)に福山市ものづくり交流館(福山市西町1-1-1-1:エフピコRiM7F)で開催しました。

主催は福山大学社会連携センターで、共催は福山市、株式会社広島銀行、一般財団法人備後地域地場産業振興センター、ビジネス交流会:福山未来(バイオビジネス研究会、スマートビジネス研究会)です。また、広島県、備後圏域連携協議会、備後圏域の商工会議所及び商工会、公益財団法人ひろしま産業振興機構から後援もいただきました。

第1回の福山大学研究成果発表会は2015年に開催され、今回で第5回目となります。

今回の研究成果発表会では、第一部の特別講演が2演題、第二部の研究成果ポスターセッションが61題でした。

第1回 2015年度 福山大学 研究成果発表会開催!!
第2回(プレリリース) 産学連携の接点はここにあり!! -「2016年度福山大学研究成果発表会」開催-
第2回 備後圏域の皆さまに本学の研究成果をお伝えしました!
第3回 備後ブランドの萌芽を探そう「2017年度福山大学研究成果発表会」を開催
第4回 2018年度 福山大学 研究成果発表会を開催!

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それでは、第一部の特別講演からご紹介します。

司会は、社会連携センター長の都祭弘幸教授(建築学科)が行いました。

続いて、松田文子学長より、2015年から始まった福山大学の研究成果発表会は今年で5回目となることや、協力して地域活性化に貢献するため、2016年5月19日に広島銀行と福山大学とで包括協定を結び、その年の第2回研究成果発表会以降は連携して企画していることの説明がありました。

今、日本では国全体が少子超高齢化、人口減少、労働人口減少などの課題に直面しており、地方の置かれた厳しい状況下にあって、この備後地域における唯一の総合大学である福山大学は何を成すべきなのか、地域から学び、地域に貢献し、それを通じて将来もそれぞれの地域から国際社会につながっていき、地域の未来をつくっていく「未来創造人」に学生を育てたいと努力しているとの説明がありました。

ちなみに、今年4月に着工し、来年12月に竣工予定である11階建ての薬学部を中心とした新棟の名前は「未来創造館」です。

また、研究面では、備後地域の産学官民連携に基づいた研究ブランディング事業「瀬戸内の里山・里海学」を立ち上げて4年目に入り、持続可能な地域づくりに向けて教員も学生も様々な角度から精力的にこれに取組んでいる旨の説明や研究成果発表会で行う特別講演会とポスターセッションの概要説明や「教育・研究支援基金」の創設についての説明もありました。

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最初の講演者は、一般財団法人 ひろぎん経済研究所 理事 経済調査部長 河野 晋氏で「創業支援の現況と課題 ~地方発ベンチャーの創出に向けて~」と題して講演を行っていただきました。

少し長文になりますが、特別講演の概略です。

ひろぎん経済研究所は、2年前から広島経済同友会にある創業支援委員会の事務局を任務されており、創業間もない企業や大学とのコラボレーションおよびPRイベント等で様々な活動をされておられることから「創業・起業」と言った話に触れながらご講演をいただきました。

創業・起業を取り巻く環境では、三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)の中で、特に東京圏の一極集中への歯止めを掛けるために魅力的な雇用の場を地方に創出して、地元で働ける環境を創り出すことが重要とされていることから、創業・起業の創出が徐々に高まる傾向にあるとの説明でした。
 
また、広島県の年齢別の人口の推移は、15歳未満の「年少人口」と15歳から64歳の「生産年齢人口」が減少し、65歳以上の「老年人口」が増えていることや日本における中小企業は、中小企業数が99.7%、従業者数が70%、付加価値が55%とのように大きなウエイトを占めており、我が国の経済・社会の中で存在感が非常に大きいとのことでした。
 
新規に開設された事業所の割合を示す開業率は緩やかな上昇傾向で、廃業率は緩やかな低下傾向とのことですが、欧米の先進国の開業率は2桁であるのに対して、日本の開業率は4~5%であり、まだまだ低いようです。

創業・起業の失敗事例の原因としては、企業・創業前では「経営管理能力の欠如」、「商品・マーケティング戦略ミス」であり、起業・創業初期の段階では「営業力の弱さ」、「商品・マーケティング戦略ミス」、「経営管理能力の欠如」であり、成長期から安定期では「営業力の弱さ」、「経営管理能力の欠如」の割合が高くなっているようです。
 
広島経済同友会では、広島県における創業支援に向けて「県内各市町と広島県の連携」、「スタートアップや起業を目指す人が利用する施設の集約」、「創業経験者が創業者を支援する仕組みづくり」、「大学発ベンチャー創出に向けた産学官連携」の4つの提言でまとめられています。
この中にある「大学発ベンチャー創出に向けた産学官連携」について、ますます活発化していくようにと期待されていました。

発表後には、「起業時に正しい将来や展望を見据えるためには、立派な知識に基づいて良い事業計画を立てることが必要です。広島銀行では、企業側の教育に対する投資についてどのようにお考えでしょうか。」といった質問がありました。
質問に対して、「銀行の方もいろんな支援機関と連携をしておりますので、その中から最適な方向性をご紹介させていただく活動を行っております。」との回答でした。

活発な質疑や回答をありがとうございました。

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次の講演者は、本学の生命工学部生物工学科 佐藤 淳准教授で「多島海に学ぶ里山・里海学と私たちの未来」~ 福山大学ブランディング推進研究「瀬戸内の里山・里海学」より~と題して福山大学ブランディング研究について講演しました。

日本は、生物地理学的には北海道、本州~四国~九州及び琉球の3つのパターンに分かれると考えられており、日本の哺乳類は北海道だけに生息しているものは起源が新しく、本州や琉球と南に下がるにつれて古い起源をもっているとのことです。

特別講演の話題に取り上げるアカネズミやヒメネズミは、このパターンに属さない日本固有種で、琉球を除く北海道、本州~四国~九州やその島々全域に生息しているそうです。

アカネズミとヒメネズミの進化の道筋を描いた系統では、730万年前にヒメネズミが最初に分岐し、続いて590万年前にアカネズミが分岐しているので、日本のネズミの研究者は最初にヒメネズミが日本列島にやって来て、その後アカネズミがやって来たと考えているとのことです。

アカネズミもヒメネズミも琉球を除く全域に生息しているので、地上から平面状に見ると分布域は同じですが、横から断面状に見ると標高によって生息域が変わり、ヒメネズミは標高の高い所に住み、アカネズミは標高の低い里に近い所に住んでいるとのことです。

この生息域の違いは、先にヒメネズミが日本列島にやって来て広がり、その後にアカネズミがやって来て、先にやって来たヒメネズミを標高の高い所に押し上げたと進化生物学者は考えているとのことで、後からやって来たアカネズミは里山を代表する生き物として生息しているとのことです。

アカネズミやヒメネズミが日本列島にやって来た600万年~700万年前は、人とチンパンジーが分岐した年代ですので、まだ人類は日本列島にやって来ていません。

人類が日本列島にやって来たのは、約3万年前~4万年前で、最初は東南アジアから縄文系の人達がやって来て、約3千年前~4千年前に弥生系の人達が農耕を携えて、朝鮮半島からやって来たとのことです。

自然と人間との境界線である里山は、人類が農耕の技術で土地を改変し、森林を切り開いて田んぼや畑を作ったことによってできたとのことです。里山と里海は、「適度な人手」が入って「複合生態系」のある「豊かな生産性・生物多様性」が見られるのが特徴とのことです。

福山は複合的な生態系が多く、「人」と「山」と「海」が近いので、里山・里海を学ぶ上で非常に良い立地条件を持っているとのことです。

世界中で生物多様性の損失が急速に失われており、一説によると2200年までには種の75%が絶滅する6度目の大量絶滅の時代が将来やってくるのではないかと危惧されているとのことです。
ちなみに、5回目の大量絶滅というのは、メキシコのユカタン半島に巨大隕石が落ちて恐竜が絶滅してしまったという絶滅です。

ジャレド・ダイアモンドが書いた「文明崩壊」という本には、過去に崩壊した文明がなぜ崩壊したのかということを探り、どの文明も環境問題に社会が適切に対応しなかったということが原因で滅びたと書かれています。
つまり、「文明の崩壊を左右する選択の際には、長期的な思考を実践する勇気、ちょうど問題が顕在化してきて、けれどまだ危険な局面には至らないような時点で、先見性のある大胆かつ明確な決断を下す勇気を要する。」と書いています。

福山大学では、この環境問題に対応するために里山・里海の生態系を明らかにして持続可能性を考えながら、里山・里海にある資源を使った経済循環や里山・里海に根付いた文化の研究及び荒廃を生まない里山・里海の姿を提示することが必要であると考えているとのことです。

文部科学省の私立大学の研究ブランディング事業には、「瀬戸内海しまなみ沿岸生態系に眠る多面的機能の解明と産業支援・教育」で採択されました。佐藤准教授は、豊かな藻場や干潟が存在する沿岸域の生態系を解明し、これらの生態系が持続可能となる方法を考えながら、里海資源を使って産業を盛り上げるプロジェクトに取り組んでいます。

この沿岸域の藻場や干潟などの生物多様性の豊かな生態系のことを「しまなみ沿岸生態系」と呼称しています。

尾道市因島には、福山大学の内海生物資源研究所があり、目の前に藻場や干潟が広く拡がっていて、生態系教育の一つの拠点としています。その藻場や干潟は生態系サービスが非常に多いそうで、例えば水質の浄化、生物多様性の維持、海岸線の保全、環境学習、保養など様々な生態系サービスが知られているとのことです。

残念ながら、藻場や干潟はどんどん減っていますので、藻場や干潟を未来永劫に維持する方法やその持続可能性について考えなければいけないとのことです。

佐藤准教授は、沿岸域の生物多様性を守るためには森を守る必要があるので、まず海と森の生態系を分析し、中でも里山の森林生態系を代表するアカネズミの食物連鎖を明らかにすることが重要であると考えています。

アカネズミが一体何を食べているのかということについて、「うんち」の中に含まれている動物や植物のDNAを調べると、蛾であるとかドングリであるとか、いろいろな生物が同定されるようです。

アカネズミはブナ科の植物をたくさん食べていますし、バラ科の草イチゴのようなものも食べています。もっと面白いのは昆虫の中で、ヤガ科の蛾をたくさん食べています。ヤガ科の蛾の中には、果実に吸い付いて被害を引き起こすような蛾が含まれていますので、アカネズミの食性は果樹園被害を抑制する効果があるのではないかということが分かってきたとのことです。

因島の最高峰の奥山に降った雨水は、アカネズミが生息している森や椋浦町を通って海に流れ込む非常にシンプルな地形をしていますので、椋浦町は森と海の間の繋がりを分析する最適な実証モデル場所として考えているとのことです。

アカネズミが住んでいる森の落葉樹の葉が落ちて、その養分が海まで流れて海辺の魚を育てていることが明らかになれば海と森のつながりが実証できます。

この森の更新にはアカネズミが深く関与しているので、実証モデルとしての因島の森と海の生態系の連鎖を解明することによって、「しまなみ沿岸生態系」を持続可能にするための手法を考え、そして、そこから生み出される里海資源を使って地方中核都市の魅力を向上させて地域への貢献を行いたいとのことでした。

2演題が行われた特別講演会場は、90人程度の聴講者で満席となり、講演を熱心に聴講されていました。

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引き続き、第二部の研究成果ポスターセッションの様子です。
今回のブログは、特別講演の概要を多く書きました。発表者全員を網羅して発表内容を紹介するとページが膨大になりますので、抜粋画像で紹介します。
なお、研究成果発表会に合わせて作成した研究成果発表集研究者情報一覧もホームページに掲載しています。どうぞ、ご覧になってください。

特別講演会場や研究成果ポスターセッション会場には、発表者の他に学生や他大学の教員、企業の研究者やコーディネータの方々、さらには高校生など外部の方も多くお見えになり非常に盛況でした。

本年度も昨年度に引き続き、福山市のご協力で、学内外を問わず研究成果発表会に参加するためにエフピコRiMの第2駐車場と第3駐車場に駐車された方は駐車券を研究成果発表会場の受付に持って来ていただくと、駐車券処理により駐車料金が無料となりました。
この操作は福山市の産業振興課の方が行われました。

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5学部14学科及び研究センター等の発表の様子です。

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2019年度福山大学研究成果発表会は、トラブルもなく無事に終えることができました。

社会連携センターは、研究成果発表会のテーマにある「明日への希望と未来創造人を育む教育・研究」に向けて、産官学金によるシーズとニーズのマッチングをさらに前進させたいと思っています。

 

学長から一言:なかなか有意義な半日でした!ひろぎん経済研究所の河野晋さま、本学の佐藤淳准教授、いずれもとても興味深いお話でした。。。ポスター発表も、一つ一つ興味の赴くままに質問して説明を聞いていると、あっという間に時間が過ぎる、興味深いものがたくさんありました。。。この地域の活性化につながるといいですねッ!!!

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