【経済学部】備後圏域経済・文化研究センター主催のシンポジウムは成功裡に終了
備後圏域経済・文化研究センター経済部門(経済学部)が、株式会社福山地方卸売市場との共催により「『市民の台所』の過去、現在と未来―福山地方卸売市場の機能と役割をめぐって」と題するシンポジウムを開催し、成功裡に終了しました。備後圏域経済・文化研究センター副センター長の張楓教授が報告します(投稿は学長室ブログメンバーのI)。
2022年12月17日(土)、学校法人福山大学社会連携推進センターにて開催された今回のシンポジウムは、2021年度の備後圏域経済・文化研究センター開設シンポジウムに引き続き、第2回目としてセンター経済部門(経済学部)が企画したものとなります。趣旨は、戦後の消費者ニーズや流通構造の劇的変化に向き合い続けてきた、福山市また備後圏域の「市民の台所」としても親しまれており、また2021年6月開設50周年を迎えた株式会社福山地方卸売市場の歴史的歩み、及び近年の改正卸売市場法成立にともなう全国卸売市場の「地殻変動」が本格化する現状と今後の在り方、方向性について、福山地方卸売市場がもつ重要な機能と役割に注目しながら、卸売市場・行政・小売りの諸関係者とともに多角的な視点から具体的に討論していくものでした。シンポジウムは、基調講演とパネル報告、パネルディスカッションの三部構成としました。
(シンポジウム司会の大城朝子准教授)
まず、大塚豊学長と経済学部長の楠田昭二教授による開会挨拶の後、細川允史様(卸売市場政策研究所代表)から「第三段階における卸売会社の経営持続性の考察」と題する基調講演が行われました。
細川允史様は、1968年に東京大学農学部を卒業後、1970年に東京都庁に入庁以来、東京都中央卸売市場食肉市場業務課長、同大田市場業務課長、労働経済局農林水産部農芸緑生課長、中央卸売市場監理課長、東京都農業試験場長などを歴任され、1997~2010年には酪農学園大学食品流通学科にて教授としてご勤務の後、2011年に卸売市場政策研究所を設立するなど、日本の卸売市場に関する長年にわたる実務経験を有する実務家研究者として著名です。現在、卸売市場政策研究所の代表として勤務の傍ら、総務省地方公営企業等経営アドバイザー、食品流通構造改善促進機構・評議員、東京都中央卸売市場業務運営協議会委員などとして、積極的かつ精力的に発信し続けていらっしゃいます。
(大塚豊学長の開会挨拶)
ちなみに、基調講演のタイトルにもある「第三段階」は、細川様がわが国の卸売市場制度について歴史的特徴から独自に分類し、提唱されているものであり、具体的には①問屋制卸売市場時代、②中央卸売市場法・旧卸売市場法時代に続き、2年前に施行された③改正卸売市場法時代を指しています。かかる斬新な枠組みに即して、現在進行中の第3段階の全国卸売市場制度改革の具体的特徴及び民設民営卸売市場としての福山地方卸売市場のポテンシャルと問題点が指摘されました。
(経済学部長の楠田昭二教授の開会挨拶)
(基調講演者:卸売市場政策研究所代表の細川允史様)
基調講演後には、福山地方卸売市場の過去、現在と未来に関する具体的パネル報告が行われました。具体的には、張楓教授(福山大学経済学部)による「福山生鮮食料品市場の『百年』と福山地方卸売市場の水産部門」、植田展大准教授(立命館大学経営学部)による「福山地方卸売市場の青果部門の歴史的展開」、池田幸博様(福山地方卸売市場・市場長)による「福山地方卸売市場の再整備過程~新たな『市民の台所』をめざして~」の3報告でした。張楓教授は、報告に先立ってシンポジウムの企画者として、福山地方卸売市場をテーマとするシンポジウムの開催に至る経緯を次のように簡潔に説明しました。
「生命工学部海洋生物科学科の有瀧真人教授が、福山大学ブランディング事業「瀬戸内の里山・里海学」の一環として進められている、地元企業の株式会社クラハシとのシロギス養殖研究開発に地域産業史研究者として好奇心を強くそそられ、有瀧教授の紹介でクラハシに2019年に訪れたことに始まりました。今、振り返りますと、自分は「不思議の国のアリス」のように、クラハシという白いウサギを追いかけながら、不思議で奥深い世界にすっかりと魅了された挙句、2年ほど前から福山地方卸売市場50周年誌の編纂を任されることとなりました。今日のパネル報告とシンポジウムは、福山地方卸売市場50周年誌の編纂の研究成果を披露するにとどまらず、企業・行政・市民間の対話を深めたいと考えております。」
(パネル報告者:福山大学経済学部の張楓教授)
(パネル報告者:立命館大学経営学部の植田展大准教授)
(パネル報告者:福山地方卸売市場・市場長の池田幸博様)
パネル報告が終了した後、パネルディスカッションが行われました。参加者は、上記の基調講演者の細川允史様とパネル報告者3名のほかに、池田圭次様(福山市経済環境局長)と丸竹義則様(株式会社エブリイホールディングス社長室長)の6名でした。ディスカッション全体の進行は、福山大学経済学部の張楓教授が担当し、活発な議論が行われました。
具体的には、①福山地方卸売市場に対しては「開設者の主体的な組織運営の在り方」、「市場法の改正により、産地直送や市場内に外部事業者を誘致可能にするなど、規制が緩和されたなかで、今回の再整備にあたり、どのような卸売市場を目指していくのか」、「少子高齢化が進むなか、全国の卸売市場で取扱量の減少傾向が続くなか、市場関係業者はどのような対応を検討しているのか」、②行政に対しては「卸売市場の公的役割」や「生産者の所得向上に対する市の具体的な取組」、「瀬戸内海を「豊かな海」にするための行政の取組」、③量販店のエブリイに対しては「現在の市場機能の不足および改善点」、「卸売市場と量販店では、単なる売り手・買い手の関係ではなく、食を通した連携の可能性」、「物流コストの増加に対する対応」、「地元に密着した量販店の視点から、今後、市内の農水産業を振興するための具体的な取組」などの議論がなされました。
(フロアからのパネルディスカッション参加者に対する質問)
(フロアからのパネルディスカッション参加者に対する質問)
質問に答える丸竹義則様(株式会社エブリイホールディングス社長室長)
(質問に答える細川允史様(卸売市場政策研究所代表))
参加者から寄せられたいくつかの全体的な感想をご紹介します。「卸売市場の歴史、役割から講演が始まり福山卸売市場への話へと入っていったので、流れで理解することができてよかった」、「福山卸売市場の歴史と現在におけるポテンシャルには改めて感銘を受けました」、「再整備について、ハード面だけでなく、ソフト面も充実させることで、今後の生き残りとさらなる発展につながる、むしろ、ソフトを充実させるためにはハードを整えるという観点はとても参考になりました」、「福山地方卸売市場の歴史と機能、役割について大変参考になりました。なくてはならない社会基盤であり、永続的な運営をするためにも、新しい発想を新しい取り組みが重要だと改めて実感しました」、「市場の歴史、駅前から現位置への移動など非常に興味深かったです。また地元SCとの関係、福山地方卸売市場の重要性、再整備の必要性を痛感した」などです。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
学長から一言:備後圏域経済・文化研究センターとしては、同センター開設記念シンポジウムに次ぐ、第二回目のシンポジウムでした。学内外の多くの参加者が一堂に会しての催しは大いに盛り上がりました。具体的な研究成果に基づく発表は聞き応えがあり、初めて耳にする内容が多かった私などもかなり学ばせて頂きました。ご協力くださった皆さまに私からも感謝申し上げたいと思います。