【機械システム工学科】学生手作りの電気自動車をコンピュータ解析!
今年度の「自動車の強度」の授業で、受講生は「府中EVレース」用車両のコンピュータ解析に取り組みました。授業担当の内田教授からの報告について、機械システム工学科の小林が紹介します。
機械システム工学科の前期授業である「自動車の強度」では、主に自動車システムコースの3年生がコンピュータ解析による自動車の強度(壊れにくさ)・剛性(変形しにくさ)の評価方法を学修しています。この授業では例年、下の図のような簡素化した車体フレームのモデルを用いて演習を行ってきましたが、今年度は実物の車両をモデル化して解析するという演習を取り入れました。
実物の車両といっても、公道を走っている普通の車ではなく、学生が手作りした電気自動車(EV)です。機械システム工学科では毎年、自動車システムコース3年生向けの後期授業である「EV創作」の中で学生らが電気自動車を製作し、「全日本EV&ゼロハンカーレースin府中」(略称:府中EVレース)に出場しています。ここで紹介する新しい演習は、今年2月に行われたレースの出走車両をモデル化して解析するという内容です。
この演習には、2つの狙いがあります。1つ目は、学生の手作り車両といえど、実物の車両は従来の演習用モデルよりもずっと複雑な構造をしており、その詳細な解析を通じて実社会で生かせる具体的な技術知識を身につけることです。2つ目は、この解析を通じて得た知見を今年の「EV創作」に生かし、レースで優秀な成績を収められる車両の製作につなげることです。自動車がよい走行性能を発揮するには、全体が軽くて頑丈に作られていなければならないのです。今年の府中EVレースでは、福山大学チームは部門優勝を果たしたものの、総合得点での入賞は逃しました。来年のレースでは、是非総合優勝を勝ち取りたいものです。
解析の手順としては、まず車両各部の座標測定、重量測定、バネ定数の測定などを行い(上の写真)、それらのデータをコンピュータに入力して車両モデルを作成します。ところが、最初に作成したモデルには多くの間違いが含まれていて、すぐ解析に持ち込むことができません。特に、今回は車両の前部担当チームと後部担当チームの二手に分かれてモデルを作成し、後で両方をドッキングするという流れで行ったため、両者のつなぎの部分の修正に苦労しました。
そのようなモデルの間違いを一つ一つ確認・修正していき、間違いがすべてなくなった時点で初めて解析ができるようになります。モデル作成や解析は、すべてBYOD、つまり「自分のディバイス必携化」の原則に従って、学生の手持ちのPCで行いました。
解析の結果を2つ紹介しましょう。下の図は、車両の自重やドライバーの体重で車体各部がどの程度変形(正確には「変位」)するかを解析した結果です。黒線が元の車体形状、緑線が変形後の形状を表しています。わかりやすいように、変形度合いは強調して表示してあります。解析の結果、変位の最大値は約1.5cmであることがわかりました。
下の図は、車体の各部にどの程度の力(正確には「応力」)が加わるかをカラー表示したものです。色が赤に近いほど大きな力が、青に近いほど小さな力が加わることを意味しています。この解析結果からは、前輪サスペンションの下部に最も大きな力が加わること、現在の車体は車両自重+ドライバー体重の約5倍の荷重に耐えられる設計になっていることなどがわかりました。サスペンションを補強し、他の部分を軽量化することで、より良い車体構造に改良できそうです。
授業では、さらにいろいろな角度からの解析を行いたかったのですが、時間の都合であまり多くのことができませんでした。この授業を受けた学生の皆さんが今後も自主的に研究を続け、来年2月のレースに勝利できる車両の構想を固めてくれることを期待しています。
学長から一言:環境保全の観点から脱炭素化が目指される中で、電気自動車が将来は車の主流になりそうです。その設計・製造に取り組む授業は「ものづくり」の最先端を「走っている」と言ってよいのでしょうか。解析過程の説明は素人にはいささか難しかったですが、学生諸君が真剣に取り組み、一つずつ問題を見つけて解決して行く様子が伝わって来ました。頼もしい限りです。将来、世界に冠たるわが国の自動車作りを担ってくれるような人材が生まれることを期待しています。