【生物工学科】野生動物のDNA分析法を学ぶ実習
地球の限界を超えている環境問題があります。その中の一つが生物多様性の損失です。脊椎動物だけに着目しても、現代は地質時代よりも100倍以上、絶滅速度が速いという報告があります。私たちは生物多様性が織り成す生態系から様々な恵みをもらっています。身の回りの生き物たちについてもっと知らなければなりません。生物工学科では、野生の動物のDNAを分析する技術を学ぶ生物多様性実習があります。今回のブログでは、その様子を生物工学科の佐藤が紹介します。
生物多様性の最高の学び場
この実習で学ぶことは、身の回りの虫やネズミの存在を知ること、そしてそれらのDNAを分析する技術を学ぶことです。福山大学は丘の上に立つ森に囲まれた大学です。豊かな自然を持つ本学は、生物多様性についての最高の学び場なのです。下の写真は学科から歩いて1分のところにある畑と近くの森です。
フィールドでの虫とネズミのサンプリング
本学で捕獲したアカネズミから耳パンチ組織を数㎜程度採取して、DNA分析のためのサンプルとしました。サンプリングの後は野外にリリースします。合わせて昆虫もサンプリングしました。童心に帰り虫網を持ってキャンパスを駆け巡ります。学生たちは楽しそうです。
アカネズミをリリースしたときの様子はこちら!元気に走り去っていきます。
PCR、DNAシークエンス
さて、今度はDNAの実験ですので、実験室の作業となり、作業は段違いに細かくなります。DNAを組織から抽出した後、一般的にも有名になったPCRという手法でミトコンドリアDNAの一部を増幅しました。その後、電気泳動法を使って、PCR増幅が成功したかどうかを確かめます。増えたときの喜びは大きいです。野外から採ってきた生き物なので成功する保証はありませんからね。今回は成功したようです。よかったですね。
下の写真はエタノール沈殿と言って、DNAを沈殿させて、その沈殿を吸わないようにゆ~っくりと上清を吸って捨てている様子です。みんな真剣です。だって、DNAは見えないから。見えないものを吸わないように、全集中。
そして、実験の最後はグリーンサイエンス研究センターにあるDNAシークエンサーを使って、ミトコンドリアDNAの一部の情報(A、C、G、Tの並び方)を解読します。全集中のおかげでうまく結果が出ていました。よかったね。
自分の同定結果は正しいか?
今度はPCを使ったデータ解析です。データを専用のプログラムを使って分析します。DNAの4文字の並び(塩基配列と言います)を国際的なDNAデータベースに検索をかけます。そうすると、自分の目で形から種を同定した虫やネズミが検索結果として出てくるはずです。でも、虫の同定は時々難しい時もありますので、ここで一致していると、ちょっと嬉しいです。ほらみろ、自分の種同定は正しかったのだ!っと。
フィールド調査からDNA実験まで、生物多様性実習はとても幅広い知識と技術を学ぶ実習です。PCRやDNA解読技術という2つのノーベル賞技術を学ぶという、バイオテクノロジーを専門とする学科では欠かすことのできない実習です。バイオテクノロジーの技術って難しそうに思えますよね?でも、それをわかりやすく教えるのが私たちの仕事です。高校生の皆さん、身近な生き物を題材にバイオテクノロジーを学んでみませんか?
キャンパス見学会で待ってます!
7月17日(土)にはキャンパス見学会があります。哺乳類の進化や生態についての模擬講義や、DNA分析の簡単な体験をすることができますので、是非、生物工学科の見学会にお越しください。わたくし佐藤が担当します。
学長から一言:生物工学科の授業の一つ、生物多様性実習の様子に関して、動画までついた詳細で本格的な報告に思わず引き込まれ、にわか科学者の気持ちに浸りました。DNA分析を行う学生諸君の真剣な目や表情が何ともいい。がんばれー、未来のサイエンティストたち。文字情報ばかりに頼っている文系の人間には、珍しい機器が並び、それらを駆使する研究の様子を見ると、いかにも大学!という感じになります。「運 鈍 根」で、世界をあっと驚かす発見がこのキャンパスで生まれるかも知れませんね。