【教養講座】森里海連環学が拓く、海から森を想い 森から海を想う
平成30年度第5回教養講座が、1月22日(火)に開講されました。
皆さんこんにちは。海洋生物科学科学長室ブログメンバーの Kenji♪ です。
今回は、先日開催された教養講座について、報告します。
森里海連環学が拓く、海から森を想い 森から海を想う
講師は、京都大学名誉教授・舞根森里海研究所長の「田中 克」先生です。
演題は、「森里海連環学が拓く、海から森を想い 森から海を想う」でした。
田中先生は、琵琶湖がひろがる町でお生まれになり、そこで育ち、多くのことをこの湖から学んだと話されました。
そういえば、私の師匠の「谷口順彦」先生(東北大学名誉教授・元 福山大学教授)も琵琶湖のある町でお生まれになり、この湖が「自分の教科書やった」と話されたことを思い出しました。
これも素敵な逸話ですが、田中先生と谷口先生は同級生で、なんと幼稚園から大学まで、ずっと一緒だったと聞いています。
“森-里-海” の繋がり
地球生命系の二大生物圏である “森林域” と “海洋域” を繋ぐ「里」。
「源泉から海へ = Head water~Ocean」・・・つまり、「H to O(H2O=水)」。
この「H to O (H2O)studies」という統合学問が【森里海連環学】なのです。
田中先生の話しの中で、“森-里-海” の繋がりがイメージできました。
日本の自然
世界の森林面積が80%から30%に激減しているなかで、日本の森林面積は国土の67%です!!
また、 海岸線の長さは3万km !! を誇ります。
日本が「森林大国」&「海洋大国」と呼ばれる所以です。
森の広葉樹が落とした葉は、やがて腐植土となります。土の中は無酸素状態のため、鉄は錆びません。
降雨や降雪によって森から海へと流れる水の中には、溶存鉄が豊富に含まれます。
この溶存鉄は、沿岸域の藻場を形成する海藻・海草類や植物性プランクトンなどの栄養となります。
ここにも、H to O(H2O)の繋がりがあるのです。
海遍路
田中先生は、「何の役にも立たないことが、これからは大事」と海遍路を始められました。
“海辺から日本の未来を見据える”
海遍路を通して、田中先生は “幸せの原点” を探す旅に出られたのです。
そこで出会われたエピソードがあります。
東日本大震災の津波の影響で壊滅的な被害を受けた、ある漁師さんとの出会いです。
この漁師さんは「太平洋銀行の利子を頂くだけでいい」と、自然から受ける恩恵をこのように表現されています。
何もかもを失った津波の被害から奮起し、再び漁を始められました。
そして、この方のそばには、父の仕事を継ぐために都会から帰ってきた息子、そしてそのお孫さんが居ます。
この “家族の繋がり” と、そこで暮らす “子どもの笑顔” が本当の復興へと繋がるのです。
野生とともに生きる
兵庫県豊岡市は「コウノトリの郷づくり」を行い、この先に確かな未来を見据えています。
京都府の丹波阿蘇海では、産卵のために遡上してくるシロサケから地域の未来を見つめ、自然を守る繋がりを模索しています。
私たちの暮らしの中の水環境を整え、地域経済を潤す取り組みから「心豊かに暮らせる社会」を産み出そうとしています。
海に生きて森を想う 森に生きて海を想う
三重県の答志島には、寝屋子制度があります。ある年齢に達すると、子どもはよその家に行って、そこで3年間を過ごします。
この間に様々なことを経験し、海藻が繁茂する海の森づくりや森への植林を通して、資源管理の大切さを学びます。
また、三重県鳥羽市の海女さんの中には、地元の海を識り「観光」ではなく、“観幸” を目指す旅館の女将さんもおられます。
さらに、標高1500m以上の山々に囲まれた宮崎県椎葉村には、焼畑農業をされている方がおられます。
ここでは、農薬も化学肥料も一切使いません。それは、この山から海へと流れ出る水の “源流域を守る心意気” があるからです。
森と海の「間」には、この方たちのような「縁の下の力持ち」の存在が必要なのです。
お隣りの国、韓国の順天湾には、人工護岸の無い広大な干潟が広がっています。
この干潟を守るために、後背地には広域な国家大庭園が造られ、エコツーリズム活性化の相乗効果が得られています。
諫早湾の干拓事業により、有明海は瀕死の状態にあります。
その三大要因は、①堰建設による「海との遮断」、②埋め立てによる「砂利採取」、③福岡市への水供給による「筑後大堰」です。
これらの要因によって、森から海への水循環(栄養供給)が断たれたのです。
全てに共通の本質は・・・森と海の人為的分断。
地域再生の土台は自然(資産)であることを認識し、
さらに、先人の知恵に学ぶ歴史の検証を通じて “人の繋がり” をつくることが大切になります。
東日本大震災から得たこと
①自然への畏敬の念を取り戻す
②大量生産/大量消費文明の終焉
③自然を制御できるとの技術過信の戒め
これらを踏まえることで、自然の免疫システムの再構築を目指さなければなりません。
大切なのは、千年の時を守り継ぐ「間」ー “自然と自然” “人と人” “自然と人” の「間」なのです。
森は海の恋人
- The forest is longing for the sea, the sea is longing for the forest ー
美智子妃殿下が名づけられたそうです。素敵ですねっ!
世界が注目する持続可能社会の理念と実践が、求められます。
宮城県気仙沼市の畠山重篤さんは、カキ養殖業者の一人です。
海を豊かにするために、森に樹木を植える運動を長年されておられます。
そして今、地域の子どもたちに対して、環境教育を実践されています。
“心に木を植える” ・・・ 畠山さんの、思いです。
「つなげよう 支えよう 森里川海」という環境省のプロジェクトが発足しました。
これからの10~15年が、本流化の「試金石」です。
かつて、自然の中には、子どもたちののびのびとした学びの場がありました。
いまや自然に溶け込む子どもたちが、絶滅危惧種なのです。
自然に学ぶ原体験を通して、私たちの自然への畏敬の念は生まれます。
今、私たちが始めなければいけないこと
未来の子どもたちに、受け継がなければならないもの
田中先生の講演を聴いて、私の中の「森-里-海」の繋がりが「間」を縫うように紡がれました。
田中先生、「ありがとうございました」。
学長から一言:田中先生のお話は、自然を征服して文明社会を築こうとした私たちが、何を間違えてしまったのか、なにを大切にして何を取り戻さなければいけないのか。。。大切なことを教えてくださいました。。。本学の推進する「瀬戸内の里山・里海学」も、「森は海の恋人」「森里海連環学」の精神を忘れないで!!!