【薬学部】アカデミアに何ができるか? - 井原市薬用シャクヤク栽培との関わりから社会実装を考える -
薬学部の髙山講師は、昨年度から晴れの国岡山農業協同組合(JA晴れの国岡山)井原市薬用作物部会と協働事業契約を結び、岡山県井原市で取り組まれている薬用作物シャクヤクの栽培における課題を科学的に検証し、またシャクヤクを活用した井原市のブランディング戦略にも取り組んでいます。この取り組みに至った経緯と将来の展望について髙山講師からの報告です(投稿は五郎丸です)。
岡山県井原市は、恵まれた自然環境を活かして、ぶどうやごぼう等の生産が活発な一方で、農畜産業者の高齢化や担い手の不足が顕在化しており、農林業・農山村の担い手となる新規就農者の確保と育成が喫緊の課題になっています。また、それにともなう耕作放棄地も拡大しており、人と自然動物の棲み分けが曖昧となり、イノシシなどの捕獲頭数も近年増加している状況です。
井原市では、2013年度よりこのような耕作放棄地の解消を目指すため薬用植物栽培に着目し、特に薬用シャクヤクの栽培事業に力を入れて推進しています。シャクヤクは、根の部分を「芍薬」という生薬として汎用されており、こむらがえりなど筋肉のけいれんを和らげてくれる芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)や、妊婦さんの諸症状を改善してくれる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)など、さまざまな漢方薬に配合される生薬です。この井原市における活動は生産者や井原市職員の方々だけではなく、現在では医師、薬剤師、看護師をはじめとする医療従事者や地元工務店、地域の学生や非農家住民、そして我々漢方薬物解析学研究室の学生や教員も参加して、シャクヤク栽培を介した地域ぐるみの「まちおこし事業」に発展しています。この取り組みについては論文になり、近日公開される予定です( 坂田雅浩*,林茂樹,髙山健人,森本潔,菊地章,樫山奈由,中山浩一「岡山県井原市における薬用植物「芍薬:べにしずか」栽培実績と今後の課題について」『 日本東洋医学雑誌』印刷中 )。
シャクヤクの花
2024年10月、今年もシャクヤクの収穫の時期がやってきました。井原市では各生産者が管理している圃場に、他の生産者も参加して力を合わせて収穫を行っています。生産者の方々が一同に集まるこの機会に著者や当研究室の学生達も参加して、収穫をしながら生産者の方々の栽培ノウハウや経験を伺いながら現場の感覚や抱えている問題を勉強させていただいています。
この日の収穫には県内の高校の生徒さん達も社会貢献活動の一環として参加されました
大舌勲 井原市長からも激励をいただきました
実物に触れながら生産者の方々に話を伺って学生も勉強しています[写真は2023年度のもの]
収穫に励む学生たち
日本国内における生薬の自給率は約10%前後にとどまり、約8割を中国からの輸入に依存している現状です。この問題を解決すべくさまざまな取り組みがなされていますが、実際に現場にきて生産者の方々や製薬メーカーの方々のお話を伺うと、大学に閉じこもっているだけでは、論文や報告を読んでいるだけでは想像することができない種々の課題が栽培現場やマーケットには存在することを思い知らされます。それらの課題に私たちアカデミアが持っているノウハウで立ち向かい、課題解決の一助になりうることはできないか?と考え、学生達と共に日々課題に向き合っています。
現場の課題を持ち帰り、科学で現象の理由を突き止めます
生産者の方々は、それぞれの実践経験に裏打ちされた考え方を基に現在に至る土づくりや栽培方法を確立されてきました。しかし、生産者の高齢化は進んでおり、その活きたノウハウが次世代の就農者に引き継ぐことができない可能性も危ぶまれています。我々はこれらの経験を科学で「見える化」に取り組み、経験知の継承と次世代就農者に生薬栽培の魅力を発信していきたいと考えており、現在抱えている課題についても生産者の方々の意見を伺いながら解決に取り組んでいます。また、シャクヤクの収穫時に廃棄される部位の有効活用を学生と共に考え、その根拠と安全性の科学的検討を進め、「薬用植物のまち いばら」をコンセプトに井原市のブランディングに発展させ、社会課題の解決と共に社会実装につなげていくことが今後の目標です。
現場の課題をヒントに新たな研究にも学生自身が取り組み、その成果を学会発表しました
最後に、このような交流・研究の場を提供いただいた上、惜しみなくご自身の栽培経験やノウハウをご教授いただいているJA晴れの国岡山井原市薬用作物部会の森本潔会長はじめ生産者の皆様、大舌勲井原市長はじめ井原市役所の関係職員の皆様、この活動を支援されている井原市民の皆様、そしてこのご縁を繋いでいただいた国立病院機構福山医療センター医師の坂田雅浩先生をはじめ、関係の皆様に心より感謝申し上げます。
学長から一言:「立てばシャクヤク、座れば牡丹」と美しい花の代表のようなシャクヤクが昔から漢方薬剤として使われて来たことは聞いたことあります。そのいっそうの活用方法を科学的に探り、近隣の井原市の関係者との連携や地域貢献・町おこしに取り組む薬学部の皆さん、本当に素晴らしい。活動のますますの発展と研究成果の開花を祈ります。